2 我輩は竜である。名前はまだない
「お願いします。アキさん。僕恐いんです」
いつの間にかアキに泣きついている若い男。若いというか幼い。下手したら俺より若いんじゃね?
「『夢を追う者達』に手伝ってもらえないのなら、僕は死にます」
死ねばいいんじゃね? 俺は思わず鼻くそをほじくってそういいかけたが黙る。
貴族の子供……にしては服の生地が豪華だし、なにより染料の種類が豊富だ。
貴族というより、王族でもここまで染料をたくさん使い、刺繍の施された服を纏うものは少ない。
腰には金の装飾のなされた剣。名剣であろうことは素人の俺でもわかるほど。
『夢を追う者達』この半年で頭角を現してきた冒険者集団。
主に掃除、洗濯、子守にドブ掃除、酒場で歌ったり踊ったり手品したり、手紙の配達を受け持ったりしている。
その業務内容から何処が冒険者なのかと疑問の声も多いが、
必ず願いを適えるだの、余計なオマケがついてくるだの余計な噂と共に有名だ。
俺 達 の こ と で あ る 。
繰り返す。
俺 達 の こ と で あ る 。
大事なことだから二回言いました。
「この子、誰? 」
俺は荒くれ者が集う宿には場違いな子供を指差しながら言った。
「私は竜です。名前はまだありません」はぁ?
「どこで生まれたか見当もつきませんが、気がついたら荒野を彷徨い、肉を食らい水を飲み日々をすごしていました」
なぁ?
「私はそのときに初めて人間を見たのですが、これが冒険者という人間の中で最も獰悪な種族でして」
おい? しばくぞ?!
「なんでも彼らは私達を襲って取って食って財宝を奪うそうで」まぁ。否定はしないが。
「ただ、そのときは何でも光り物を見ては喜ぶ性分でしたので、彼らを見てちょっとじゃれた程度で」ふむ。
「初めて魔法を使われたり剣で斬られたときはフハハハと」ん?
「手のひらの上で呻く人間を少し落ち着いてみると顔の中央が少し出ていて他の獣と違って毛がなくつるつるでなんとも面妖な生き物だと思ったものです」……。
「えっと。慈愛神殿でお前の脳みそ見てもらうから、来い」「えっ? 」
俺は自称・竜。その実は頭のおかしい坊やを連れて『五竜亭』を後にした。