エピローグ。過ぎ去りし時。今ひとたび
過ぎ去った時は冒険者達にも子供達にも平等だった。
親族が死んだもの、友人が死んだもの、家族や伴侶が再婚、離別したもの。
そもそも今まで死んだと思われていたので財産などもなくなっていた。
大人たちはいい。問題は。
「確かに跡継ぎだったが、そっくりな子供をつれてきても」
「いまさら無駄飯ぐらいが増えてもね。流石に兄さんは養えないよ」などなど。
何人かの子供達は行き場を失ったのだ。
三年ぶりに会う息子の姿にエイドさんとアーリィさんは号泣して本当に喜んでくれた。
ファルコにお礼を言おうとする三人に、俺はファルコは出かけたと伝えた。
去っていくファルコは俺に背を向け、『偽者はもういらないから』とだけ呟いた。俺は奴の頭を抱きしめて泣いた。
エイドさんは今回の件から、『決めた! ファルコを本気で養子にする! 』と叫んだが。
俺はファルコの希望をそっと伝えるのみにとどめた。
「で、こーなったのか」エイドさんのふてくされた声。
『五竜亭』に溢れる子供子供子供。
「なんとかならんのかチーア」なるワケない。
「流石に2人まではいいけど、一気に5人以上はキツイ」何とかしろ。
おまけに素直で優しく可愛かった息子は見た目に反した知能がついて
トンでもない悪戯者に変身していたのだからエイドさんの心労は計り知れない。
数ヵ月後。
季節は秋を過ぎ、風はまた冷たい刃となって俺たちを切り刻む。
そんな中でも元気な奴は元気なもので。
「こらぁ!!!! 悪戯ガキどもっおぉぉっっ!! 」エイドさんの絶叫が響く。
「わーい!! 」「おこった怒った〜! 」「えーどおこった〜! 」「きゃははは! 」
子供達に混じってファルコとホーリィがいるのだが……。頭が痛い。
ファルコとそっくりのイーグルだが、数ヶ月で背がのびている。
「俺は強くなるんだ。
あの館では頑張っても強くなれなかったけど、
今は頑張ればどんどん強くてデカくなれるんだ」
そういって、子供とは思えないバカ食いをファルコと競い、
毎日ロー・アースを呼びつけては剣の練習をし、読み書きを必死で勉強している。
いつかこの愛らしい容姿があの熊みたいな化け物になるのだろうか。少し心配になる。
俺は服を汚したということでしばらく厨房勤めをする羽目になっていた。
「カラン」呼び鈴がなる。
荒くれ共が黄色い声を上げる。神官の服に聖印。つややかな黒い髪。
十人並みの容姿で美女ではないが極めて若い。加えて明るい笑み。
この笑みは男女問わず間違いなく良い印象を与えるだろう。
長くもすらりと美しいわけでもないが、男好きのする肉つきのよい腕と脚、ふくよかな胸。
格別細いというほどではないが、それでも人並みの腹回り。
身だしなみはしっかりしており、果実で作った香水のほのかで優しい匂いがする。
「はじめまして。私は慈愛の女神に仕える者です。
非力ながら武術を少々と、わずかですが癒しの力を持っています。
今日から私も冒険者になりたいのですが、ご主人は何処に? 」
女に餓えた男どもの黄色い声、若い娘への嫉妬の入り混じる女の声。
店は一時騒然とする騒ぎになった。
「テメェら黙れ!! 飯だ! 飯だ! 今日はサービスだ! 」
ガンガンとフライパンを殴って静かにさせる。
騒ぎの中心になった若い神官の前に俺は歩みだす。
「おい。マリア」……俺は頭を抱えた。
「あら。私達は初対面ですよ? 『チーアさん』? 」
奴は腹黒い笑みを浮かべた。
もし、郊外の森の中の小さな冒険者の店を訪れる事があったら、
迷うことなく俺達を指名して欲しい。きっと、願いは叶うから。
ただし、『余計なオマケ』については自己責任で!
(Fin)




