15 蝶が夢か我らが蝶か
「こんな小さな化け物だったのか?! 」俺は呟いた。
化け物というか、禍々しい模様の蝶か蛾にしか見えない。
「こっちの世界ではこんな姿〜♪ 」ファルコは呟く。
「『胡蝶の夢』。蝶が私か、私が蝶かとは言うが」ロー・アースも驚いている。
ファルコに踏み潰された蝶のような小さな魔物を見て、
瓦解したはずの屋敷の前で俺達は呆然としていた。
「お兄さん、お姉さん。……ほら」イーグルは微笑む。遠くから足音が聞こえる。
黒い髪、白い肌。謎めいた腹黒い笑み。
神殿で会った担当者だ。名前は『マリア』。
「ただいま。お父さん。お母さん」「「お帰り。マリア」」
抱き合い、泣き崩れる親子に俺達は目をそらした。
久しぶりの再会に突っ込んじゃ野暮ってもんだろ?
マリアは幼女の姿を取り戻していた。
涙を流し、喜び、父母に抱かれて笑っていた。
「待ってたの……待ってたの!! ずっと!!! 帰れた! やっと帰れた!! 」
「ああ。ずっと一緒だ!!!!! 」
俺達はお互いの顔を覗き込み、微笑む。
「俺らも帰ろうか」「クソ親父とお袋の顔も見たいし」4人で微笑みあう。
珍しくロー・アースも笑っていた。
「『夢を追う者たち』……でしたね。ありがとうございました。言葉もありません」
三人は俺達に頭を下げた。小さなマリアはあの腹黒い笑みを浮かべていたが、もう怒る気もしない。
「ありがとう。チーアさん。おかげでお父さんとお母さんと一緒に眠れます」
むっちゃ腹立つんだが。俺が呟くと彼女は笑った。
「利用させていただきました。御免なさい」いいさ。もう。
俺は脹れるしぐさをしてから微笑んだ。
マリアは笑う。
「『必ず願いを叶えてくれる冒険者』。本当ですね」
老人だった二人、モヨモト氏とムーン婦人は微笑む。
「孫は見れませんでしたが、夢魔の偽りの夢を砕き、本当の願いを叶えてくれてありがとうございます。
イーグルさん。『夢を追う者たち』。……本当に、本当に有難うございました」
二人は手を伸ばす。
腰を落としてイーグルやファルコと握手。
二人は照れたように笑ってみせた。
俺達6人は熱く。固く握手を交わしあった。
「この世界は崩れます。私達は遠くに行きます」
これからいく先はきっと安らかなところなのだろう。俺は思った。
「いろんな人を巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
モヨモト氏とムーン婦人は頭を下げる。俺達の足元には子供や冒険者と思しき男女が倒れている。
死んでいるようだが、寝ているだけらしい。
「では」三人は去っていく。
『パタン』と屋敷の扉が閉まった。
呻いて起き出す冒険者や子供達、
彼らの中には10年以上時が動いていない者もいる。
彼らはこの後どういう人生を送るのだろう。
「帰ろう。皆待ってる」俺は呟いた。
事態を理解していない冒険者達や子供達は寝ぼけた瞳で俺達に従った。
(俺達には聴こえなかった会話)
「いいのかい。マリア」「行っていいのよ」
「お父さん。お母さん。私……」