13 目覚めの時
「もう終わりなんだよ」俺は呟いた。
「爺さん。婆さん。今までのことは謝るから、その子を返してやれよ」イーグルは言う。
「あと、出来たら俺達を帰してくれると助かる」コレはロー・アース。
「盗賊と悪戯小僧がノコノコと」老婆は苛立ちを隠さない。
老人は無言で剣を抜く。今度は間違いなく三人とも斬られるだろう。
「ロー・アース! 」俺は叫ぶ。
「『我が真言において、あるべきものよ! あるべきところに戻れ! 』」
ローの手に握られたスクロールが燃え上がる。
イーグルの手に古ぼけた手紙。
「ホレ、爺。いや、にーちゃんって言うべきなのかい? 」
「にーちゃん?? 」
老人たちは不思議そうな顔をする。
「ああ。婆さんも姉ちゃんらしいな」イーグルは呟く。
「ねーちゃん?? 」老婆と幼女は不思議そうな顔をする。
「『五竜亭』より慈愛の女神神殿からのお届け物です。
『大人になった私からお爺ちゃんお婆ちゃんになったなったお父さんとお母さんに』受け取ってください」
イーグルは丁寧に頭を下げ、老人の手に手紙を握らせた。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
突如絶叫が周囲に響き渡る。
屋敷の光景がゆがみ、壁が、鎧が、絵画が動き出す。
「目覚めの時だ!!!!!!! 悪夢は終わりだ! 」俺の叫びに。
「止めろォォォオ!!!!!!!!!! 」
屋敷の壁が、絵画が、床が、天井がうごめき、
不気味な顔をいくつも浮かび上げ、いっせいに俺達6人に襲いかかった。
俺は短剣を翳し、イーグルとの間に割り込む。
光り輝く退魔の光に『屋敷』は怯む様子を見せた。
イーグルは石を投げ、ロー・アースは二本の剣を抜き、
老婆は幼女を護るように覆いかぶさり、老人は剣を取る。
「「なんだこれは!! 」」
老人達が叫ぶが、俺だってイマイチ理解していない。
「知るか! 」俺はそう叫ぶと退魔の短剣を適当に投げつけ、
『屋敷』が怯んだ隙に弓を取ってそこらに放ってやる。
「ふむ。やはり良い素質だな」へ?
老人は楽しそうに呟く。
……? この非常時に何を言っているんだこの爺さんは!
「小剣と長柄の長剣の間合い、巧みな短剣術。おまけに魔法まで使うのか」
懐に飛び込んだ彫像を突き、長剣で鎧を倒し、魔法の稲妻で絵画の魔女を撃つロー。
「そちらのお嬢さんは短弓の技と女神の祝福。と精霊の加護を持っているのだな」
正直、俺は余裕がない。デスマーチにも程がある負担だ。
「では私はお嬢さんの援護に回ろう。剣士、お前は前で戦え」
俺に対する攻撃がやみ、老人の剣が『屋敷』の攻撃を防ぐ。
「お嬢さんは支援を頼む」老人は微笑む。
あ〜。もう! 人の仲間を刺しておいて指導者面とは食えネェ爺だ!
「三つの間合いを使いこなせば貴様はもっと強くなれる」老人は楽しそうに笑い声を上げる。
ロー・アースはそれに応えるようにナメクジのようにうごめいて襲ってくる階段を切り倒し、炎で焼く。
襲い掛かる『屋敷』に老人は不敵な笑い声を上げた。
「そうかんたんにわたしが たおせるかな
マサムネの きれあじを きみらのからだで あじわうがいい! 」
ばっさばっさと片刃の剣で切り払う。
「お嬢さんはもっと仲間を信じて戦えば良い!
この イージスのたてで きみらのこうげきは ふせぐぞ」爺さん。あんた盾持ってない!
「きたぞ きたぞ! 」と爺さんが叫ぶ。
爺さんと婆さんの姿が若々しい青年と表情に幼さの残る淑女になっていく。
「では そろそろ いくか!」
俺達はいっせいに反撃を始めた。剣が、弓が、小石や壷が屋敷に攻撃を加える。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ辞めろ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ
止めろォォォオ!!!!!!!!!!止めろォォォオ!!!!!!!!!!
止めろォォォオ!!!!!!!!!!止めろォォォオ!!!!!!!!!!
屋敷が崩れていく。夜明けが見えた。
朝露が木々を輝かせ、優しい光があたりを照らしていく。
瓦礫と化した屋敷の中、俺達は呆然とお互いを見ていた。
「な なんだ これは! わたしの からだが! なにが おこったのだー! 」落ち着いて欲しい。マジで。
「あんたらは年寄りじゃない。若夫婦だ」ロー・アースは苦笑した。彼にしては珍しい。
「お届け物です」イーグルは伝えた。
老人だった二人は不思議そうに古ぼけた封筒を持つ。
「『大人になった私から』? 」二人は封筒を手に取る。
「文面変わってる? 」俺は疑問を口にしたが。「黙れはげ」「はげてネェ! 」
「私たちには。孫娘などいない」其のとおり。
これは娘のかわりに二人が書いた手紙だからだ。
大人になって、自分と同じ名前の孫娘を連れ帰ります。
娘と彼らの果たせなかった未来への夢が詰まった手紙。
「帰ろうぜ。ファルコ」俺は幼女に手を伸ばした。幼女は微笑んだ。
「まだなの」幼女は首を振った。
……??
「お爺ちゃん。お婆ちゃん。僕。悪いのをやっつけないと駄目なの」幼女は呟いた。
「そうか」「ごめんね」二人は頷く。
「ううん。僕、二人をだましてたの。僕、二人が悪い人かどうか見てたの」幼女は微笑む。
空間から絶叫が響く。
「何故だ!!!!! 夢を叶えてやるのだ!! 望みどおりにしてやるのだ!!! 」
「貴様らもそうだろう! 夢のままに! 夢で生きろ!!! 」
「せっかくだけど、遠慮します」幼女は呟いた。
「夢は一番大事だが、それより大事なものを見出した時、人は大人になる」ロー・アースは応える。
「幸せな夢が永遠に覚めないならソレ、悪夢だから」イーグルが呆れる。
「導く夢があっても、覚めないなら前に進めないな」俺が笑う。
「お爺ちゃん。おばあちゃん。悪いヤツ、やっつけてくる」幼女はハッキリという。
「そうか」老人だった青年は頷き、老婆だった女性は微笑む。
「マリア……はここにはいないのね。君の名は??? 」
「ファルコ……。ファルコ・ミスミル!!! 」
ロングスカートを邪魔そうに翻すと、両腕をふり、謎の構えを取ってポーズを取るファルコ。
「へんしん! 」