10 その剣士の名はモヨモト
キン!!!!
間一髪、俺との間に割り込んだロー・アースのショートソードが老人の剣を止める。
横殴りにロー・アースは長剣を振るうが、老人はやすやすとかわした。
「盗賊にしては良い剣技だな」「盗賊じゃない。傭兵だ」
ロー・アースの表情にはいつものやる気のない様子が無い。
老人は凄まじい剣士なのだろう。
「正規の剣術と実戦的な邪剣の融合か。貴様の師匠は有能のようだ」老人は微笑む。
ロー・アースは鋭く踏み込み、左手の長剣で攻め、右手のショートソードの間合いに誘い込もうとするが老人は軽々とその
攻撃をかわしてみせる。
「其の程度で誘っているつもりかね? 」
老人は右手の剣でローの二本の剣をあしらいつつ、彼の懐に飛び込み、腰の短剣を抜く。
「!! 」「……急所は外したつもりだ」
崩れ落ちるロー・アースを見て俺は愕然とする。
長剣で攻め、ショートソードで防御していたかとおもうと、
懐に飛び込ませてショートソードで止めを刺すのがローの戦い方だが、
老人はそれを見抜いた上で接近戦で彼を倒したのだ。
「いい素質だ。殺すには惜しい。もっと腕を磨くべきだな……次は君かね? 」
老人は血のついた短剣を俺に向ける。
「ロー! ロー・アース!! 」俺は彼に駆け寄る。確かに急所は外してある。
だが、彼が一撃とはなんと言う使い手だ。
「慈愛の女神よ」俺が祈りを捧げると淡い光が彼を包む。
死にはしないが、当面動くことは出来ないだろう。
「ほう、慈愛の女神の使徒が泥棒とは」老人の声。
「泥棒はテメェらだ」
俺は剣を向ける老人を睨み付けた。
「ファルコを返せ」後ろで怯えた表情を見せ、老婆に寄り添う幼女に眼を向ける。
「……マリアは渡さん」老人は目を細める。
「二人とも、後ろを向いておきなさい」
「ごめん。ロー・アース」
殴ったりして。天国があるならそこで謝るから!
あれ? ロー・アースが地獄に行ったら会えないんじゃね?
バカバカしいことを考えつつ俺は目を閉じた。