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9 誰だかシラネェがファルコを返せ

 ゼイゼイと喘ぐ俺。

喉が焼けるように痛い。嫌な汗がべっとりと身体について冷たい。

俺の前には封筒のあて先となった館がある。


「誰だかシラネェがファルコ返しやがれクソ野郎!! 」

俺は思いっきり入り口の鉄格子を蹴飛ば……そうとしたが。

鉄格子は勝手に開きやがった。


 派手に前に倒れて前後180度に大開脚した状態で

強烈に股間と両の腿を打ってしまった俺はしばらく呻く。


 「あいててて……チクショウ」悶絶した所為で頭も少し打ったようだ。

アキに着せられたスカートをまだ履いていた所為で白い太ももから血が滲んでいる。


「……弓がない」『五竜亭』に置いて来たのを思い出した。

暇と体力を持て余す慈愛の女神の神殿の人間には珍しい(!)ことなんだが、

俺はまったく格闘の心得がない。一応護身用の短剣は持っているが。


 ベルトにつけた短剣を取り外す。

複雑な細工を施された銀の短剣は妖精族の母が持っていた物らしい。

率直に言えば実用性を疑う見かけだが、

銀で出来ている筈なのにやたらめったら頑丈かつ鉄の鎧を削ぐ切れ味を持つ。


 親父曰く破魔の力があり、エルフ族の身分証明になるブツらしい。

実にありがたい品だが。正直、包丁代わりにしか使っていない。


 生垣だった木々をすり抜け、入り口を開く。

凄い埃の匂いと蜘蛛の巣の塊。中は真っ暗。

ドワーフから以前貰った、ほたる石でできた鞘を手で擦る。

鞘は柔らかな緑色の光を放ちだす。


 「とんでもない廃屋だな」俺はぼやいた。

ううううううう。こういう不気味なところは俺は苦手だ。

ファルコの奴は何処にいるんだか。


 「おーい! ファルコ〜! 何処だ〜〜!! 」

ホーリィの奴は”何処にもいない”と言っていたが。

「聞こえたら返事しやがれ! メシ作ってやらんぞ! 」


勿論返事はない。


 短剣で蜘蛛の巣を切り払い、エプロンの端を口と鼻に当てて咳き込む。

「う”〜。なんで俺がこんなことしてんだ」探索を始めてしばらくして。


 「……ん??? 」

俺はボロボロの絨毯を踏みしめると前に出た。

屋敷の主人と思しき若夫婦とその娘と思しき幼女の肖像画。


 「ファルコにそっくりだぞ。コレ」

髪の色、性別を除けば幼女は驚く程ファルコに良く似ている。

肖像画の下には説明文があるが、正直読めない。

ファルコにも似ているが、この顔見覚えがあるぞ。何処だったっけ?


 「……兄貴がいれば文字くらい判るんだが」

あの放浪癖は今頃いったい何処をほっつき歩いているんだろう。

俺はエプロンの端を口に当てながらため息をついた。


 「……ア!! チーア!!! 」ロー・アースの声が聴こえる。

どうやら追いかけてきたらしいが、馬ならさておき、ちょっと速過ぎる。

俺は思わず物陰に隠れた。


 シャッターつきのランタンを持ったロー・アースが現れる。

「チーア! 何処だ! 」舌打ちする彼は肖像画に気づいたようだ。


「マリア。5歳。モヨモト・ムーン・ブルグ、マリー・ムーン・ブルグか」

マリア?? そういえば。たしか『アイツ』の名前も。


 「……」

無言でロー・アースは背を向けたまま手をこっちに振る。


 ガッ!!!

短剣が俺の耳の横に突き刺さる。


 「危ないじゃないか! バカヤロウ!!! 」「お前か」

殺す気だったろ。てめぇ。


 「この屋敷の主だった若夫婦の肖像だな」

ロー・アースはそういうが、どう見ても老人には見えない。

「おじいちゃん、おばあちゃんって何だよ? 」俺も腑に落ちない。


 「結論からすると、この屋敷に該当する住人はいなかったな。

子供は稀によく自分の未来や未来の父母に手紙を出すそうだぞ」

稀に良くって何だよ。俺は文句を言いかけたが辞めた。


 「シンバットが乗せてくれた」

ロー・アースはそういうと俺に弓を手渡す。シンバットは俺の馬だ。

あの荒くれ馬がロー・アースを乗せるなんてありえないが。相性悪いし。

俺は弓と箙、弓から胸を守る胸当てを受け取るとスカートの上から身にまとう。


 ん? 何故か呆けている彼。いつものことだが。気になる。

「意外と似合っているぞ」「バカ」俺は呆れた。そんな趣味があるのか。コイツは。


 「そうだ。手紙だ」俺は思い出した。

俺はエプロンのポケットから手紙を出そうとするが

上から胸当てを装備したので取り出しにくい。


 「おい。チーア!!! 」ロー・アースが何か叫んでいる。

俺は目を見張った。肖像画の中の三人が動いている?!

並んで立っていた三人は楽しそうに動き出す。


 俺は即座に破魔の短剣を頭上にかざした。

短剣は白い光を放ち、其の光は辺りを満たす。


 「どうなっているんだ」俺は悪態をついた。

さっきまで埃まみれだった廃屋が豪華な屋敷になっている。


 「盗賊かね? 大胆だな」

背後から老人の声と鞘から剣が抜かれる音。

「マリア、マリー、下がっていなさい」


 俺が振り返ると、剣を握った老人がいる。

その姿は肖像画の青年に酷似していた。

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