7 慈愛神殿ではお化けより夜番の神官のほうが怖い
「それはそれは。不幸でしたね」また慈愛神殿。
本来は今日は俺が夜の番をするのだが、
今回の捜査のため、先日の彼女に担当を代わってもらっている。
彼女の淹れた眠気覚ましの薬草茶は岩塩味だった。嫌がらせらしい。
「お土産?? 」「うん。どうなんだろって」
夜の番と言っても慈愛の女神の神殿の宝物庫は事実上の食料貯蔵庫なのと、
あまり嬉しい話ではないが貧民や盗賊達の殆どは幼少期に慈愛の女神の神殿の炊き出しで生き延びた者が多く、
その義理立てで慈愛の女神の神殿を襲わない。
俺達があえて警備しているのは。
『戦いを好まない穏やかな美女ばかりの神殿』
そう思い込んで忍び込む侵入者が悲惨な末路を辿って後で王国に睨まれない為である。
「子供といっても文字をやっと覚えたくらいの子ですし、お土産なんて考えないのでは? 」
「でも書いてあるらしいぜ??? 」俺は手紙を開封する気は起きないが、そう書いてるらしい。
「それは、お父さんに言われるまま写したのかも知れませんね」なるほど。
じゃなんだよ。と俺は問うと彼女は微笑んだ。
「元気な顔とか? 」
なんじゃそりゃ。俺は呆れた。
「いえ、期待してますよ。チーアさん」担当者は艶然と微笑んだ。
俺は呆れるとともに岩塩味の茶を啜り終わるとロー・アースのするように背を向けて歩き出し、
やる気なさそうに手をひらひらさせてみせた。「まぁ、調べても大して分からんし、現場みてくるわ」
「ええ。ご無事を祈っております。慈愛の女神の恩寵あれ」
「ロー・アース。そっちはどうだった? 」
場所変わって『五竜亭』。彼は『五竜亭』のとある一室を調べに行っていた。
「親父さんたちの息子さんは友達に頼まれてあの屋敷に行ったみたいだ。
『素敵なお姉さん』の友達らしい。が、親父さんたちは知らないってさ」
「誰だよ」聞いてみたが、出入りの冒険者達でもなかったらしい。
そもそも荒くれ共の中にいる女というのは、同じくらいの荒くれ者か娼婦や奴隷と大差ない。
「つまり、アレか」「ああ」「手がかりなし」「お手上げ〜 だな」
ロー・アースが両手を挙げた。まるっきりやる気が感じられない。
「ファルコが心配じゃないのかっ!!!!! 」俺は奴の頬を殴り倒した。
「俺、一人でも探すよ! 」
瞼に熱いものが触れるのを隠すように俺は走った。
あの屋敷に向かって。