5 慈愛神殿の図書室にはお化けがでるらしい
「行くぞ」
ロー・アースに小突かれ、俺は店を出た。
夜の森の空気が心地よい。俺達は町へと急ぐ。
ロー・アースは呟く。
「イーグルだったかな……二人の子供、死んだって言ってるけど行方不明なんだそうだ」
!!! それって!!!!!!! 俺は確信した。この手紙の所為か!!!
俺達は手分けして調べ物を開始した。
ローは貴族や商人の使用人たちに当たるという。
俺は幽霊退治の記録を見にいけといわれて久しぶりに慈愛の女神の神殿に足を運ぶ。
不信心物の癖に癒しの力だけは強い俺はあまりいい顔はされない。
大体俺は文字は殆ど読めないし、経典なんてワケわからない。
兄貴は優秀らしいが、俺はてんで駄目だ。
おまけに癒しの女神の神官は殆どが女で、『慈悲深くて優しい方々ばかり』ときていて、
俺みたいに男ばかりの環境で暮らしていた奴には過ごし難いのだ。
夜の神殿は格別な不気味さだ。貧乏神殿だから明かりは最低限。
その最低限の灯りしか無いなか、昼でも薄暗く、『お化けが出る』と評判の区画に脚を運ぶ。
「記録を見たい? ……見れば良いでしょう。女神の慈悲は等しく全てに注がれています」
「俺、文字殆ど読めねぇんだが」というと彼女は意地悪く笑ってみせた。
そんなんだから癒しの力が弱いんだ。
俺は悪態をつきかけたが、女を敵に回すのは不味いので黙っている。
居心地の悪い時間が数分流れると彼女は意地の悪い笑みを浮かべ、
「慈愛深く」記録を取り出して読んでくれた。
こいつは腹黒いが、外面は完璧だ。
神殿が下した結論としてはあの屋敷には幽霊の類はいない。らしい。
他にもあの屋敷にまつわる記録はいくつか見つかったが、若夫婦の結婚の祝福をしたとか、
酒に酔った拍子に踏み込んで調べまわった酔狂物の冒険者の懺悔程度だった。
「子供達は誘拐でもされたのでしょうか」俺はなんとか丁寧な言葉で担当者に尋ねる。
「わかりません。盗賊の類でもないようですよ」担当者はそう答えた。
冒険者は盗賊のギルドに所属するものも少なからずいる。おそらく間違いは無いのだろう。
「ところで、この手紙をご存知ですか」
俺は恐る恐る手紙を差し出した。
おそらく、距離的にこの神殿に届けられるものだったと推測できるからだ。
担当者が手紙を持とうとするので「持っちゃ駄目です! 」と俺は叫ぶ。
呪いだかなんだか知らないが、巻き込みたくはない。
「御祓いするべき呪いの力は感じませんね」俺も同感だ。
だが、事実この手紙は持ち主を転々とする。ややこしいものには触らないのが一番である。
「確かに他国の慈愛の神殿経由で我が神殿に届いたもののようです。
その後、冒険者達に託されたものの筈ですが」
「届いた記録は残っていないのですか」俺は苛立つ。
「『紛失した』と記録にありますね」そりゃそうだろう。エイドさんは隠していたし。
「差出人に連絡は取れますか」俺は聞く。もう10年以上前のはずだ。わからない事のほうが多い。
「無理です」担当者は答えた。
「船が沈んで、亡くなったと聞いております」なんだって?!