3 おかえり マリア(三人称)
時間は少々遡る。「ゆうれい屋敷」と聞いたファルコは手紙を手に喜んで駆け出した。
後ろでチーアの止める声が聞こえた気もしたが、あまり気にしない。
店を飛び出し、木々を飛び越え、崖を滑り降り、まっすぐ城門に向かう。
門番のお兄さんに挨拶もそこそこに一気に走りぬけ、
知り合いのパン屋さんや肉屋さんや子供達に手を振りつつ、目的地に一直線。
「キキッ! 」
音を立てて停まるとブーツから焦げた匂いが立ち上った。
「ここなの! 」ファルコは楽しそうに呟いた。
「……入るけど、勝手に入っていいよね? 」良いわけがない。
意外にも鉄格子で出来た正門はファルコが軽く押しただけで開いた。
「おじゃまします……」
誰も見ていないだろうに律儀に頭を下げてから入るファルコ。
普通の子供と同じ速度で歩きつつ、辺りを見回す。
街中にある館なので、あまり庭は大きく出来ないが、それでも可也の広さがあった。
その庭は荒れ放題で、入り口が見えないほどだ。やがて館の扉にたどり着く。
「おじゃまするの」ファルコは扉に手を触れようとすると勝手に扉は導くように開いた。
明かりはなく、中は埃の匂いが酷い。
ファルコは『ほたる石』というこするとぼんやりと広範囲に隙間無く光を灯す石を取り出す。
ごしごしとズボンでこすると、石は隙間無く辺りを照らす。
この光は暗めに見えて影が出来にくいので隠れているものでも容易に見つけることが出来る。
以前、三人がドワーフ達の村を助けたとき、贈られた品であった。
「誰もいないの? 」ファルコは呟いた。
誰もいないが、誰かいる。彼の本能が告げる。矛盾した結論だが、彼はその結論を疑わなかった。
「あのね。あのね。手紙を届けにきたの!おじいちゃんおばあちゃんにって! 」
手紙を取り出し、ファルコは驚いた。封書の蝋が光を放っている。
光はやがて辺りに溶け込み、屋敷を包み、光に照らされたところはくもの巣や埃が消えてゆく。
ボロボロの鎧はピカピカに。黒ずんだ絨毯は真っ赤なビロードに。
埃と瓦礫の塊は頭上のシャンデリアに。黒ずんだ壁掛けは豪華なタペストリと絵画に。
入り口からみえる豪勢な階段を降りる靴音。そこには気品のある老婦人と威厳のある老人がいた。
「お帰り。マリア」
「ただいま。おじいちゃん。おばあちゃん」
リボンをつけ、ワンピースを身にまとい、スカートの端をもって優雅にお辞儀をする幼女。
その横顔は確かにファルコそっくりであった。