1 遅れてきた手紙
「届けるの〜! 届けるの〜! 」
空腹でアキとメイ親子のメシを食べたのが不味かったと俺は思っていた。
俺、チーア。一応冒険者をやっている。
さっきから届ける届けると叫んでいるのは相棒のファルコ。ファルコ・ミスリル。
テーブルから無責任にも眺めているだけなのはロー。ロー・アース。
三時を回って四時の鐘が鳴る頃、冒険者の店『五竜亭』の中で
赤子だか幼児にしか見えない奴……ファルコが騒いでいる。
発端は俺がアキ親子の飯を食った代償に、
二人の休暇の補欠としてこの店で働くことになり、
店の掃除中に年代物の封をした手紙が見つけた事だった。
おそらく、何らかの事情で届けられなかった手紙であろう。
(なお、どういうわけか、普段男の格好の俺は、
貴族の召使が身につけるスカートとエプロンを穿かされている)
手紙を俺達冒険者に託すものもいないわけではない。
勿論、中身に手をつける不届き物も少なからずいるので、
お金は無いが遠くに届けたいという子供の手紙に限られる。
大抵、ファルコのようなグラスランナーが街中から手紙をもらってくるか、
神殿や冒険者の店が預かった手紙を届ける形になる。
冒険者といっても色々タイプがいて、俺達のように街中で起こる事件を解決するものもいるし、
街から街に旅するものもいる。同じ街でも端から端まで走れば結構な距離だ。
仕事ついでに最寄の神殿や他の冒険者の店に向かい、店主や神官、礼拝に来る子供達に手紙を届ける。
結構需要がある。多少だが小遣いももらえる。
今回は捨てようとしていたゴミの中にあった封筒を偶然ファルコが見つけた。
店主は休暇のはずのアキと俺に店を託してどこかに出かけてしまった。無責任なもんだ。
「しかし、なんだって届けられなかったんだろ」俺は小首をかしげる。
貴族街の端っこのほうがあて先になっている。届けられない距離のはずが無い。
「……届ける前に託された人が亡くなったのかしら」アキは呟いた。
そういうことは珍しくは無い。それでも遺品中、手紙の類は優先してあて先に届けられる。
「……何年も前だな」ロー・アースは呟いた。下手したら10年以上。
「『おばあちゃん、おじいちゃんに』って書いてるの!大事な手紙なの!」
ファルコは真剣な顔をして抗議する。
「だから、何度も言うが」ロー・アースは諭す。
「そこはもう空き家だ」そして。
「身内もいないから国が接収したが、幽霊屋敷とあだ名されて買い手もつかない」と補足した。
「ゆうれい屋敷??? 」
ファルコの顔が明るくなる。しまった。と俺は思った。
「行くの!!!!! 」
待て!と俺は叫んだが走ろうにも慣れぬスカート、
しかも妙に下半身の布地が少なく、ぱんつが見える。
加えて向こうは100mを7秒で走りやがる上、
崖の上から下まで飛び降り飛び上がり、道だろうが木の枝から枝だろうが気にせず走りぬく。
シェイハ!! シェイハ!! シェイハシェイハシェイハ!! オゥイェーィ!! オゥイェーィ!! オゥイェーィ!!
……あっという間に差をつけられ、ファルコの姿は街の門のほうに消えていった。
「身内がいないって……どういうこと? 」アキの疑問に「さぁなぁ」ローはあくびをした。
関心はないらしい。
「知らないからな。もう!」
俺はファルコの去った方向に悪態をついた。
俺は予測しなかった。まさかこれがまた俺達の『無駄な名声』を上げることになるとはと。