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8 『悪魔』は人々(おれたち)の心にいる

 「い、いつ戻られたのですか勇者様??!!! こ、この餓鬼族は? 」長老は脅えた表情で俺を見る。

「……餓鬼族こいつらは。家族や仲間を皆殺しにされたそうだが、アンタを食いたいってさ? 」

醒めた声。たぶん俺の声なんだろう。

追っ手を差し向けた所為だろう。村はガラガラだった。俺たち6人は容易に長老の家にたどり着いた。


 「……ジェイクやショーンの肉を食った豚の料理かよ」

皮肉めいた声だがロー・アースの声ではない。

「??? ……ああ。とてもいい味になるんです。いい食材って大事ですよね。

あの役立たずの子供はなんの傷も病気も治せませんし、

少々甚振って憂さ晴らししていたらあっさり死んでしまいましたよ」


 「便所に入れられてた奴らは」「あれは見物でした。実に楽しかったですよ? 」

年寄りは直接楽しめないのでこうでもしないとと老人は温和な笑みを浮かべた。

「お医者さまの言うとおりにしたら一人は生き延びたんでしょうねぇ。ちょっと遅くて最後の一匹も死んでしまいましたが




 自分の心臓の音と、呼吸の音が別の世界の音のように聞こえる。

視界がぐらぐら揺れて、にじむ。

「……キャルは……黒髪黒目の娘は? 」

「大柄な娘は豊満な上、意外と具合のほうも良かったそうですが、あっちは天にも昇る具合の良さだったそうで!

黒髪黒目の半妖精と寝ると幸運がつくと言いますが本当ですね! 」

ガタガタと音がする。自分の震えが装備を揺らす音だと気がついた。

「"食う いい? "」「"爺 まずい いや"」「"たべもの いい"」「"のうみそ うまい"」

餓鬼族たちがうるさい。


 黙っていたファルコが短剣を抜いた。

「しけ…(死刑)」「いぃぃ??? どうされたのですか勇者さま方??! 」脅える長老。

「だめ……」俺は気がつかないうちにファルコを抱きしめていた。


「それだけは だめ」涙が止まらなかった。


 兄貴が言っていたが、明らかに悪としか思えない人間の中で「善意の元に悪を行う」人間がいるらしい。

こういった連中は聖騎士の悪意を見抜く能力でも見抜けないという。


 ロー・アースが言うには、女を余所の村から麦一袋で買ってくる以外は絞めてしまうとかは貧農ではよくあるらしい。

この村のように余所から来た旅人の手足を潰して子供を産み出すための家畜にすることも無いわけではないと。

特に領主のいない村では村の中のことは独自の裁量で行われるから実態がつかみにくい。

だから、自分たちを助けてくれる冒険者のことを道具か家畜のように感じたり、

見目麗しいとされる(俺たちの独自技術の『化粧』『立体的縫製』のおかげだが)冒険者の娘を優先的に寄越せという話に


なったらしい。


 ファルコは短剣をしまいながら「弱いのを苛めるの よくないよね」としょんぼりしていた。

俺たちだって正義の味方じゃない。そもそも自分の悪事を悪と思っていない奴らを諭すことなど。

彼らは彼らなりの論理で平和に生きているんだろう。たぶん。


 「ゼシカとキャルとジェイクはかえしてもらいます」ロー・アースは事務的に答えた。

「一応、店主に報告しますが、今後のご利用はお控えください」


 「な? 何を言っているんだ若造が? お前ごときが店主のつもりか? 貴様は頭がおかしい。何処か良い施療師に見て


もらえ」


 「ご親切、痛み入ります」

一言も言い返さず。ロー・アースは丁寧に頭を下げた。


 「豚小屋の男と死体は……くれてやろう。

欲しければ糞まみれだが便所の豚の死体二つも持って帰ってかまわん。

あのままでは肥料とやらにもならんそうだしな。まったく無駄な投資だった。

だが、今の豚たちはとても具合が良くて皆喜んでいる。しっかり産んでもらわないといかん」……。

「村の財産に手をつけるなら、それこそ店主に報告せねばならんな」そうぼやく長老。


 「帰るぞ」ロー・アースは呟いた。「うん」「だね」

痺れをきらしたのか、長老に歩み寄る餓鬼族たち。

「ちょっと待て!この餓鬼族は??!」


 「……『平和的に話し合って』くれ」「だぁね」

ひらひらと手をやる気なさげに振るロー・アース。ローに続くファルコ。

「……」俺はだまって二人とともに長老宅を離れた。


 長老宅からひびく絶叫に俺は耳を塞いだ。

ロー・アースが肩を抱いてくれた。ファルコが膝にぶら下がって離れなかった。


 俺たちは荷物をまとめ、見張りと言うかお楽しみ中の村人(長老に似ていた)たちを殴り倒し、

ゼシカとキャルらしき肉塊を回収し、錯乱するジェイクに猿轡をつけて傷口を縛り、シンバットとライトに乗せた。


 餓鬼族四匹は王の出発に最高の礼をみせた。

俺たちは血にまみれた彼らと手を握りあい、再会を誓って村を後にしたのだった。

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