6 餓鬼族の王「ロ・ア」
「ジールたちはいい仕事したみたいだな」
ロー・アースがいつのもやる気のない喋り方……に聴こえる喋り方をする。
「あのね。……餓鬼族はメスと小さな子供たちしかいなかったの」
いい仕事? 6人とも餓鬼族の巣に入り込んで骨も残らなかったって聞いたぞ。
「食人鬼がいてさ。子供を襲っているように見えたんだ」「なの」
「そしたら、子供じゃなくて餓鬼族のメスと子供たちだった」「うん。まれによくある」
おい。変なたとえしたら結婚指輪の親のダイヤのネックレスでぶんなぐっぞ?
「"王様 無事デシタカ? "」??? 「"余は無事だ"」???
暗闇から現れる小さな影たち。背は老人のように曲がっているがずっと小柄。そして強い悪臭。
こいつらっ???!!!
「餓鬼族??!!! ジールたちの仇っ!!?? 」
弓が無いので殴りかかろうとして二人に止められる。
「すまん。寝ぼけているらしい……"コイツ ネボケテイル"」「"王様 無事 ナニヨリ"」「"大儀である"。なの」
「"足労をかける"」「"王様 言葉 チガウ"」
餓鬼族の言葉を使う二人。基本的に餓鬼族には『平等』などの概念がない。
「"オマエラ なに してる"」俺は餓鬼族の言葉でたどたどしく問う。
餓鬼族には『愛』とか『夢』とかそういった言語がない。会話はどうしてもカタコトになってしまう。
「あのね。ろうが王様なの」はい????
「"ツヨイ おうさま オレ ……オイシイ" 」『喜び』って言葉も無いらしい。
「ぼくらのりだ?は ろうだから、ろうが王様なんだって! 」バカ言うなっ!!??
「ジールたちの仇! ぶっ殺すっ!!! むぐ~~!!! こら~~!! 」
「『人のはやしらいす』なの」「話を聞けだろ」「そうともいう」のんびり会話している二人。
「"ひどい 人間 やっつける 王様 すごい"」
餓鬼族のメスたちは嬉しそうに飛び跳ねる。
「……??? 」意味解らん。誰が酷いって?
「そりゃ、仲間が二十匹以上いたけど、そのとき腹に子供がいたコイツ以外皆殺しじゃそう感じるだろ」「だね」
……斬新な発想だな。お前ら。
「ロ・ア! 」「ロ・ア! 」「ロ・ア! 」楽しそうに叫ぶ餓鬼族。
信じられないがこの三匹は生まれたてらしい。……そりゃ殲滅が推奨されるわ。
「ロ・アってなん……? ああああああああ!!!!!!! 」
ロ・アは餓鬼族の伝承に伝わる伝説の勇者(厳密には勇者という言葉が無い。つまり神)だ。
その姿は人間そのもの。餓鬼族の食料候補兼奴隷から身を起こし、小さな体格を努力と知略で補い、ついには王になる。
威風堂々青い布を首に巻き、多くの人間やエルフやドワーフを斃して多くの部族を併合。
最後は「いつか戻る」と伝えて姿を消した。
餓鬼族はロ・アのような威風をまといたいと切に願うが、彼の行った努力は一切しない。
……つまり。
「俺はロ・アに間違われたらしい」「うん」「……アホか? 」
「餓鬼だ」妙に納得した。
餓鬼族の彼女とライト(オイシソウと餓鬼族たちは言ったがファルコがとめた)の導きで俺たちは山へ。
「山を抜けて、迂回して『車輪の王都』に戻れば安全さ」「らいと。えら~い! 」
驢馬ってこういう道なき道を先導する生き物だったっけ? まぁいいが。
……シンバットは嫌そうについてくる。
「あのさ。ジールたちは」
生きているのか? だって餓鬼族に勝ったんだろ?
「……」「……」喋らない二人。
「あのさ。キャルはさ。いつも楽しそうでさ。今度スカートの作り方を教えてあげるって言ってやってさ」
「……」「……」
「ジェイクのおっさんは実は魔導士だったんだぜ? 知ってたか? でさ。でさ。
本当は魔法が使える盗賊だったけど足がつきそうだったから逃げてきたのに舞い戻りって愚痴っててさ」
「……」「……ジェイクは生きていたな」
「マジでっ?? あのおっさんは俺にも愛想良くてさっ!?無事でよかったよ!!」
黒髪黒目の半妖精の俺やキャルにも不気味がらず暖かく接してくれるいい奴だった。
盗賊だったが脚気かなんかで走れなくなったので失業だって言ってたが、
俺の早足についてこれる程度には走れた。昔はどれだけはやく走れたのだろう。
貧農の村の魔導士から泥棒になったようなオッサンだが、本当に子供には優しかったんだ。
「ショーンは体力がないから、完全武装できる神官なのに鎧がダメでさ!
よく走りこみを店の周りでお前にやらされてたよな! 」
俺たちが刃物を使わなかったりするのは教義の問題のほうが多い。俺? シラネ。
「ジョージは戦士だけどしっかり者だったし、狩人の娘のゼシカと仲良かったよな!
知ってるか!? あいつ等、餓鬼族退治が終わったら村に帰って結婚するんだって……なんとか言えよ」
「……」「……」
「……なんとか。言えよ」
涙があふれてくる。
「……あいつらは」「……」
「おい。ファルコ。なにしみったれた顔してるんだよ……。は、は。ははっ? なぁロー・アース?! 」
なんとか笑おうとする俺はローの方を向く。彼は白い手袋をつけた手を強く握り締められている。
「あいつらは……? 」「たぶん死んだ」「死んだよ」……。
――― !!!!!!! ―――
山の中に俺の絶叫が響いた。おれ自身も何を叫んでいたのか覚えていない。