4 回想。『野辺の花たち』
「なぁチーア」あん? 俺は返事らしからぬ返事をする。
「あんだよ? ジール」正直、ジールは苦手だ。いい奴だが少々鈍い。本当に鈍い。
「いいだべ? 」安物の布地を手に楽しそうなジール。「……? 」
「おれが竜退治の英雄になったらお姫さまにスカートをプレゼントしないといけね」
アホ。それは安物だ。ちゃんと選べ。
「みれ? 模様がついている布って高けえんだ?! 」
その程度の刺繍。俺でも楽々出来るわ。恥ずかしいからしないが。
「スカートにする。裁縫上手な奴いねか? 」「知るかボケ」その程度の裁縫や刺繍なら俺のほうが巧い。
「一緒にション……」「死ね」
「つれねぇ奴だ」「あん? 」
すやすや……。
「ねぇ? ねぇ! チーア!! 」……キャル。俺。眠いんだが。
「あのね! あのね! ジールがいい布買ってたんだ! 」ああ。
「きっとオラにぷれぜんと? してくれるっだっ! 」……そっか。
キャルはジールの幼馴染だ。素朴な感じがするいいやつである。
人間同士の間でも半妖精が産まれることは稀にあるらしい。黒髪黒目、尖った耳。美しい容姿。
俺と同じく精霊の力を生まれながら使えるので悪魔の子として親からも疎まれたが兄貴かわりのジールとその親だけはかば
ってくれたらしい。
ジールについて村を出たのはいいが、冒険者になってからというものの男たちに何度も襲われそうになり男性不信気味にな
っていたが。
「ああ。俺。女だから」
水浴びをためらう彼女の前で若干膨らんできた胸を見せて笑う俺。
「うわああああああああ!!!??? 女? おんな? おんな???!! 」
以来、すっかり懐かれてしまった。向こうのほうが年上なのでちょっと気恥ずかしい。
彼女はジールと結婚するのが夢で、早く村に帰りたいらしい。
ジールはまったく! 気がついていない。まったく男と言う奴は。
「スカート、縫い方おしえてくれっか? 」あ~。うん。出来なくは無い。
「刺繍、糸いっぱい買ったわ! きれいにすっる! 」……見本見せてやるよ。
「きれい? きれい? おれきれい? 」ああ。最高。どんなお姫さまだって敵わんよ。
すやすや……。