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3 患者の機嫌が悪いのはがまんがまんの子

 「えっと、貴方の目の件は井戸に一種のカビが潜んでいるようです。

可能なら煮沸してから水を使ってほしいのですが」薪代に事欠く貧農には無理なお話だ。自分でもそう思う。

「貴方の病気は人にうつることがありますので、家を清潔にしつつなるべく寝るときは暖かいものを身につけてください」

「これは薬草です。習慣的に服用する必要があります。……(省略)。

よく生えていますので間違いにくいと思いますが注意してください」

「脚が動かないんですね。えっと、女神さまに加護を祈るのですぐ動くようになりますよ」

なんて忙しいんだ。しかも野郎ばかりきやがって。女は手伝いに来てくれ!


「おい。先生!? 治らないじゃねぇか?! 」あれ??? ちゃんと祈ったんだが。


 女神さま? 女神さま? ……お~い? れれれ???

「むう。なんか知らんが女神さまの機嫌が悪いみたいっす」どーなってるんだ?

「またかよっ!?? やくたたずの神官もそういってたぜ! 」……『また』?

「医者を呼べって何度も言ってるのに役立たずの神官ばかりよこしやがって! 」

まぁ、医者より使徒を呼んだほうが手っ取り早いこともある。人数が少ない村なら尚更だ。

「やっと医者がきたと思ったら餓鬼じゃねぇかっ! 」……『患者の機嫌が悪いのはがまんがまんの子』っと。


 「え~と」俺は不機嫌そうなおっさんに告げた。「補助の器具をつけますのでこれでしのいでください」

兄貴は本当にいろいろ考え付くものだ。エライ。

補助器具をありあわせのものでつくってやる。おっさんは立ち上がって先程まで動かなかった足を軽く地面にたたきつけた。

「……まぁ歩けるようになったから勘弁してやるぜ」えらそうだな。おっさん。

「それだと壊れるから、鍛冶屋に頼んで作り直してもらうといいですよ」「クソッタレの鍛冶屋の手先め。タダで作れ」

無茶言うな。俺は器具作り自体は素人だ。

「おい。先生。俺もてくれよ」はいはい。


 あれから何度か試してみたが、何故か女神さまの加護を祈っても発揮されることはなかった。

――― 俺が乱暴者すぎて女神さまに見放されたのか? ―――

思わず自分の手に切り込みを入れて試そうとする。


 『―――!!! 』

ナイフを手に持った瞬間にめっさ怒られた。いるじゃん。女神さま。

『慈愛の女神』は自傷行為を戒めている。


 む~女神さま~? 女神さま~? 怪我人や病人がここにいますよ~?

くそっ。やっぱり反応なしか。勝手に使徒にしておいて都合のいいときだけ叱り飛ばしやがって。

俺は心の中で悪態をついたが、慈悲深い女神さまはスルーされたようだった。


 「あ~! もうっ! 女はいねぇのかっ??!! なんでもいいし! 誰でもいいからてつだえっ!! 」

便所に行く暇もねぇっ!!! 忙しすぎるだろうっ! 二人についていけばよかった!!

目を合わせる男ども……??? なんだ?? どうした???


 「この村に女はいませんよ」へ??? 今なんて言った?

そういった若い男を年配の男が肘で撃つ。うめく若者。

「女たちは……流行り病で皆」……すみません。余計なこと聞きました。

「流行り病?? どんな? 薬に余裕があれば来年はかからないように対処できますが」


「????!!!! 」


 「最初からかからない事が可能ですって?? 」「……たぶん」自信は無い。

兄貴曰く、毎年来襲する流行病だが、耐性がつく流行病もあるし、同じ病でも年が変われば違うらしい。

ものによっては来年にはかかりにくくするということも可能らしい。

……実の兄だが、ボケの癖に妙に鋭いから間違いないのだろう。


「……」

「……」

「……」何故か黙り込む村人たち。

「脚気ならいい薬草がありますし(作者註訳:この世界では脚気は伝染病と思われています)、

天然痘ならチトやばいっすが、出所が怪しい薬ならあります(ウンコを研究している学者が開発したなんていえねぇが)。

結核なら俺もヤバイっすが、いい薬ありますし、ちとかかっている人は別の場所に移動してもらいますが、少しは改善する


と」

「……」

「流行り病です」「どんな? 赤痢? 黒死? いろいろありますが……」

「流行病っていってんだろっ!!! 」キレる年配の男。

俺は長老の前で年配の男に謝る羽目になった。言い過ぎた。


 「はぁ」マジで漏れそうだ。

以前フレアにもらった『シューロ』の葉をあてておけば大丈夫ではあるが限りがある。

葉っぱから芽が出るほどの生命力がある植物だから下手に捨てるわけにもいけない。

まぁ、実がなる前に普通は枯れるから大丈夫なんだが。


 「便所はありますか? 」「あります」

無いことのほうが多いが、個人的にはあってくれたほうが嬉しい。

「お医者さまは便所の『豚』の飼い方もわかりますか? 」中年の男の質問に。

「あ~あれは知り合いが提案しているので、詳しいっす」できたら用をたしてからにしてほしいが。


 「豚は賢いし、綺麗好きだし、人に懐きますし、可愛いしなぁ」俺は大好きだ。食っても美味い。

「ですね!! 最高に良いですよ! こうヒィヒィ言わせてね! この間のは若くて具合が良くって! 」……はい?

俺が不思議そうな顔をしているとさっきの年配の男が中年の男の頭を殴った。

過疎の寒村だが、やたらめったら乱暴な連中だな。野郎ばかりだと荒むのは仕方ないが。


 「さっきも言いましたが豚は綺麗好きですし、糞尿で育てるといっても清潔にしてあげないと」

「ふむ。糞たまりの中に突っ込んだら死んだりするわけですね。参考になります」

……知らないから適当にやったんだろうが可哀相だろっ!!!??? しばくぞっ?!

つか、さっさと小便にいかせてほしいんだがっ?!

「とりあえず。はじめは輪作からはじめることをお勧めします。糞尿で土地が汚染された場合、寄生虫の危険が」

まぁ寄生虫くらい誰でも腹の中にいると思うが。変態学者の提案する糞尿を飼料にする方法は実践はかなり危険だったり。

あと、頭がパーになる病気がどうこう。蚊のいる地方に限られるそうだが。


「では、輪作とは」「えっと、慈愛神殿と知り合いの学者が実験中なんですが……頼みます。便所に」

俺は話を打ち切って便所に走った。おまえらと違ってこっちは辛いんだ。


……。


 「ふう」

男装していると面倒なことが多々ある。……所謂いわゆる『連れション』って奴に誘われたときなどは。

まったく。なんであいつ等は一緒に小便に行こうとか言い出すんだか。こっちはいろいろ大変なんだぞ。

しかし、マジで中酷いことになってるな。大をやって跳ねたら脚にウンコがつくだろうな。


 「……あ? 」

うん? 今誰かに呼ばれたような。ファルコのイタズラにしちゃ帰ってくるのがはやい。


 「ひ あ……」

ぞくっ。怖気がした。視線を感じる。野郎の覘きなんて普通しないと思うが。

わざわざ便所に入るのは用を足すときに女とバレたくないってのもある。

何故か下に視線がうつる。


「……」


 視線があった。二つの目!!!

「うっひゃああああああああああああっっつつ????!!!!!!! 」

俺はズボンもロクに直さずに飛び出し、長老宅に走った。「目っ! 目ッ!!! 目ッ??? 」

「目がどうしました? 」「目がッ! 目があぁぁ!!! 」

お互いの目を合わせて少々考えた彼らは「『豚』です」と言う。ぶた??? ぶた???

「あんな糞の沼みたいな中に突っ込むな! かわいそうだろ!! 」「改善します」

彼らは俺の癇癪かんしゃく……もとい農業指導を子供相手とか言わずちゃんと聞いてくれた。

「でも、すぐには直せませんので」貧農の村では一度作った施設を作り直すのはとんでもなく難しい。俺は黙った。


 その夜。

「……まったく。女も寄越せと言ったのに」「仕方ない。3人しか今回は呼べなかった」

「口は悪いがあの餓鬼は腕のいい医者だな。助かるぜ。見た目もいいしな」「……女だったらな」

「はははっ! 本当だよなっ! 半妖精は美人って言うが本当だなっ! あっちの具合も段違いだし! 」

「『怪我でもして』ずっといて欲しいくらいだな」「ははは。あの容姿だし、男でもアリだな! 」


 おい。聴こえているぞ? 半妖精の耳舐めんな。

「まったく」俺はシラミと南京虫だらけの夜具に寝転がりながら悪態をつく。

(母親の血筋か、こういう虫がくっついたことは一度もない)

ファルやロー・アースの奴ら、うまくやってるんだろうか?


……すやすや。

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