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4 森の少女

 「いででで……。どうなってるんだ」

親父との喧嘩で子猫みたいにあっさり首根っこをつかまれて敗北した理由。

最近頭と腹が痛い。マジいたい。死ぬほどいたい。


 オマケに恥ずかしい話だが先日少し漏らしてしまった。

少し血が混じっていたみたいだが、変な病気にでもかかったんだろうか。

イライラする。頭痛い。痛すぎて眩暈がする。


 勿論狩りに集中できるわけがなく、ウサギもイタチもあっさり逃がしてしまった。

吐き気までしてくる。ううう。


 「何してるの?」頭上から子供の声。

……。


 俺は目をそらした。

なんちゅう格好してるんだ。


 妖精族を思わせるスケスケの薄絹を身に巻きつけて肩でとめただけの格好。

黒髪緑目、細身で小柄な少女が樹木の上から俺に話しかけたらしい。


 下着の類は一切身につけていない。靴は布を巻きつけただけ。

靴代わりの布と真鍮の輪を頭につけている以外、実質全裸とまったく変わりが無い。


 音も無く俺の目の前に舞い降りた少女は開口一番。「私、フレア」


自己紹介らしい。


 「この森に住んでいるの」ふーん。

「ここ、王族の狩場だよ?」

……親父もたまには本当のこと言うのか。


 「えっと、密猟者は捕まえるか殺せって言われているんだけど?」殺す??!!

135センチの俺よりはずっと背丈はあるが、どうみても俺より子供なんだが……。


 「一応、管理は『五竜亭』に任されているの。私は『五竜亭』の冒険者」ぷっ。

笑い出した俺に不満そうな顔を向けるフレア。

体調は相変わらずだが、陽だまりが気持ちいい。


 「い、いや、ごめん。こんな子供が荒くれの仲間とか」

噴き出す俺に不満そうに頬を膨らませるフレア。


 「じゃ、殺す」

彼女は笑顔を浮かべ、片手でデカイ樹を引っこ抜いた。


 ……ちゅんちゅんと鳥の声、爽やかな春の風、穏やかな木漏れ日の中、

巨大な樹を片手で引っつかむ少女は夢を見ているようなおかしな光景だ。


 フレアが握りこんでいる部分は凄い勢いで圧縮されていく。

「死んでね♪」えっ?

ずうううううううんんんん!!!と轟音。


 鳥や獣の逃げる音、木々が裂けて爆せる音と悲鳴、周囲の精霊の悲鳴が俺の頭に反響する。

幸いにも、枝と枝の間に逃げ込んだので軽症で済んだが、この娘、本気で殺すつもりらしい。


必死で逃げようとする俺だが、腹に激痛が走り、対応が遅れた。


そして轟音。


 「……」

走れなかった。何故生きているのだろう。


「……女の子の匂いがする」

????


 「私、女の子は殺さないの」

フレアはそういうと巨木を振り上げ、元の位置に差し込む。

彼女は破砕された木々や草花に手を触れていくと、

木々や草花は何事も無かったように傷が癒えていく。


 いつの間にかフレアの周りに動物達が集まっている。

フレアは楽しそうに彼らの頭を撫でる。


 「怖がらせてごめんね」そういって動物たちに愛想を振りまくフレア。何者だ?

……怪力はさておき、こういう力は。


 「……エルフ???」

エルフなら耳が尖っているものだが。ついでに言うと髪も黒いはずがない。


 「さぁ?」

さぁって……。さぁ?って?! こっちが聴きたいわっ?!


 「私、この森に昔から住んでいるの」いつから???

「昔からよ」「何歳だよ」

つか、巨木を片手で引っこ抜くとか何者だよ。


 「15歳?」

何故疑問符。


 「あと、エルフじゃなく精霊使い」

精霊使い?


 「せいれいつかいって?」

俺が問うと彼女は不思議そうに言う。「あなたもそうでしょ?」う~ん。


 「俺の場合、母親の血筋らしい」

正直、手足と同じ感覚なのでよくわからんが、

俺の水だの風だのを呼ぶ力は精霊使いって奴らの力らしい。


「精霊の言葉を無意識に使うのは良くないわよ。精霊には危険な子もいるわ」うーん判らん。


「お母さんってドライアド?」何故知っている。


「じゃ、お父さんはガウルでお兄さんがトーイ。あなたはチーア」だから何故知っている。


 「管理人が戻ってきたみたいだから、しばらく失業ね」

楽しそうに笑う彼女に俺はイラつく。死にかけたんだし当然だが、この娘何者だよ。


 「私?知らない」自分のことだろっ!!!

あれ?俺、話しかけていないのに。


 「わかるよ。チーアのこと」……。

「俺、額とか合わせていないんだが」

エルフなら額とかを合わせれば相手の心がわかってしまうが。


「とりあえず、チーアは狩りしてもいいから、あまり森を汚さないでね」は、はぁ。


「たまに木の実とか持ってきてね」へ???


「精霊の言葉の使い方教えてあげるから」は、はぁ。木の実って……俺狩人なんですが。


「肉は食べられるけど苦手」「生で食うから?」「焼いたの、もってきてくれるなら食べる」ふむ。


 「それより、コレ、使うといいよ」

繊毛がびっしりついた柔らかい布を思わせる葉を渡され、俺は首をかしげる。


「なんじゃこりゃ」

そもそも葉っぱなのかすら良く判らん。植物の精霊の気配はするが。


「シューロって葉だけど」

うーん。はじめて見た。狩人の俺も知らない植物か。


「水を綺麗にしたり、油を拭きとったり、種を撒くとすばやく発芽したりするし、血止めにもなるの」??

「お尻を拭くのにも使えるよ」あはは。もらっておく。

「……そういう使い方もできるよ?」「……心読まないでくれ」「ごめんなさい」

漏らしちゃったのを親父にばれないようにするのに大変だったんだし。


 「もうすぐいっぱい血がでるから注意ね」へ???

「半妖精は慣れるとおしっこみたいに自分で操れるようになるから大丈夫」は、はい??!

「あと病気ではないから気にしなくていいよ。ガウルには赤いご飯ライス作らせておくし」

……よくわからん。なんで赤いご飯ライス???!! 病気の治療法か??


 「だから病気じゃないって言ってるじゃない」頼むから説明しろ。

「ガウルの血筋の風習」

は、はぁ……風習で怪我だの病気?と思うと「駄目だ」と言うようにフレアは首を振って見せた。

少しむかつく。


 「一枚だと辛いよ。

多い日は三枚ほどあてておいて、痛みがきつかったらこの実を食べておけばそのうち改善するから」

黙って赤い小さな実を受け取る。

鎮痛効果があるらしい。ようするに治療方法はなくて、ほっときゃ治るってか?


 「だいたい毎月一回あるんじゃない?」マジか。死ぬほど痛いぞ。

「まだ初期症状みたいだけど???」……死ぬ。俺絶対死ぬ。


 「半妖精は年に一回程度に落ち着くから大丈夫」

俺、お袋の血引いてて良かった。

「私に用があるなら、『五竜亭』のエイドかガウルに言うか、ここで呼べば良いよ」


「この国の国王でも良いけどね」は、はぁ。


 ……あれ???


跡形も無く、フレアは消えていた。

……あれだけ荒れた森も元通り。夢か??


 古ぼけた赤い木の実とシューロとか言う葉を見て考えを改めた俺はとりあえず『五竜亭』とやらに向かった。

水くらい分けてくれるだろう。多分。

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