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1 お前は戦力外

 「いいか。くれぐれも注意しろ」

親父さんは再三俺達に注意の言葉を繰り返す。

本来は6人から10人は派遣したいところだが、先方の都合(金銭的事情)により三名しか派遣できないらしい。

俺達より腕利きはもっと強い魔物の征伐に行かないといけないから、俺達が失敗したらかの村は滅ぶ。


 「数の力って奴は本当に恐ろしい。ついで、連中のほうが力は強いんだ。

絶対格闘は避けろ。弓矢はたくさん用意しろ。向こうも弓を使うかも知れんが粗悪なものだ。

とにかく接近戦は避けろ。


 一匹倒したら一度逃げろ。明け方に攻撃を開始しろ。

もし夜になったら頑丈な建物で村人皆と朝まで待て。

家畜を助けたいとか畑が心配だとか家から出たくないとか言い出す奴は放り出せ。

 こっちから仕掛ける場合、絶対に奴らの巣に踏み込むな。

数を確認して勝てる数だと判断したら見張りを倒し、

素早く入り口をふさいで松葉で燻し出せ。わかったか? 」


 一見卑怯に見えるが、その忠告を聞かずに奴らの巣穴にはいった駆け出し連中の多くは還らぬ人になった。

連中はどんな暗闇でも見通す不思議な目を持っている。

下手に巣穴にはいったら真っ先に明かりを狙われてお陀仏だそうだ。

物語だと最初のイージーな仕事みたいに描かれる餓鬼族退治だが現実と言う奴はかくも物語と違う。

「ああ、傭兵時代にやったことがあるからな」「わかったの! 」「……肝に銘じます」


 「特にチーアは気をつけろ」俺は何度も何度も注意を受けた。

そんなに俺がやばそうに見えるのか! おやっさん!

「当然だろ」「だねぇ……」その残念な子を見る目をやめろファルコっ!!!


 「あと、これは手紙だ。こっちは村から買ってきてくれって言われている商品だ。

……解っているだろうが横領はすんなよ? 」頭を何度も縦にふる俺たち。マジ怖いっす!


 信用の出来る冒険者を使い、地方の村の必要物資の販売や注文取り、手紙運搬の代行を行うのも冒険者の店の仕事だ。

ついで仕事だが、こうでもしないと冒険者が割りの合わない仕事(餓鬼族退治)をやらないので重要だ。

この中には奴隷商人が出す注文の札なども含まれるらしいが、奴隷商と村々の独自の暗号になっていることが多く、俺達にはわからない事も多い(たいてい、店や冒険者に発覚した時点で破棄される)。


 「……あと、『腕のいい医者』が必要って話だ」ん??? 俺???

「だな」「だね」同意する二人。よーわからんが兄貴直伝の医術は凄いらしい。

「怪我なんて縛っておけばそのうち治るし、病気だって適当に病人から離れて栄養あるの食ってりゃ治るだろ」

「新説だな」「だあねぇ」「……お前の兄貴は有名な医者でもあるんだぞ? 」

ようわからんが、あの天然ボケが他所では偉大な人間みたいに言われていて違和感がある。エロ親父もそうだが。


 「まぁ……餓鬼族の集まりに対抗できる奴が二名。医者が一名となるとお前らしか」

「……俺はハブかっ!!!??? 」

「うん」「(ふぁぁあ)そりゃそうだろ……」「……お前は村で大人しくしていろ」

ひでぇ! ひでぇよ! エイドさん!!!


 「ヤバイと思ったら……こういってはいけないが村が滅んでもいいから逃げて来い」

「ぼくらは別行動になるの~?? 」「ああ。餓鬼族は任せた」

そこまで言うか。駆け出し冒険者の分際で逃亡などしたら仕事の口が無くなるじゃないか。


「もう借金はないんだから堅気に戻っていいだろ」真面目な顔で俺を見るエイドさん。


はい?????!


「借金が、ない????????! 」「だよ? 」

ファルコ。彼は幼児の姿をしているが幼児ではなく立派な成人である。そういう種族だ。

彼ははこともなげに茶をすすり、ロー・アースはセサミビスケットを口に運んでエールを呑んでいる。


 「え? なんで?! なんで?! あんだけ苦労して死にかけてタダ働きばかりだったのにっ?! 」

「お前は何を言っているんだ? 」「ちいや。ぼくら、とっくの昔にしゃっきんかえしてるよ? 」


 「なんせ、ドワーフの村を救った時点でこの店の修理費以上の仕事をしているからな」

「えええええええええええええええ?????????!! 」


 じゃ、じゃ、この三ヶ月以上の苦闘は?!!! なんだったんだっ?!!


 「あ、そっか」

ファルコは手の平に手槌をうちつけて呟いた。

「えーどさん。ほら、ちいやってもじ読めないから」「そういえば」

ちょ、ちょっとくらい読めるわいっ?! ……自分の名前程度は。


 「じゃ、じゃ、俺の稼ぎは?????????! 」

「ガウルに渡したが? 」「……親父を殺してくる」

俺は弓を手に『五竜亭』を出ようとしたが、二人に止められた。


 「冗談だよ。ほら、無駄遣いしないようにしっかり保存している」

金貨や大金貨のカタマリを見せ付けられて俺は絶句した。これが、俺の財産??!

俺は苦笑いした。この三ヶ月以上、何をやっていたのやら。


 「少なくとも、敵討ちまではやるよ」「やらなくていい」はい??

「復讐は禁止だろ。慈愛神殿では」かんけいないね。

「特に。お前はダメだ」はぁ?

「もう、冒険に出る必要はないだろう。引退を考えたらどうだ? 」

そりゃ、その通りだし、もう。借金を気にして奔走する必要がないなら。

でも、辛い事もあるけど……。でも……。


 「餓鬼族関係なしに、村でヤバイとか、危ないって思ったら気にせず逃げろ」……。

「ああん??!! ナニ言った???!! 」「ちいや?! だめ! 」「おいっ! やめろ!!!? 」

必死で止めようとする二人を尻目に殴りかかろうとする俺を見ながらエイドさんが悲しそうにしていたのをあとで思い出した。そのときは気にもしなかったが。

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