10 『平和』の奇跡
「……ばかなっ?! 」男の声が五月蝿い。
俺は髪をつかまれたまま呆然としている。
アスラに、取り込まれて死んだはずなのに。俺。
「きゃ♪ きゃ♪ 」
アスラは機嫌よく微笑んでいる。
あ~もう仕方ないな。ミルクは何処だったっけ?
「ほら、アスラ」そういって巨大な哺乳瓶を持つ青年。
やる気のなさそうな、不愉快なツラの。……ロー・アース。
「アスラくん。ゆっくり、よく飲むんだよ~ 」
そうのんびりと告げて、アスラを宥める幼児の姿をした妖精。ファルコ。
「なんで俺たち、生きてるんだろうな? 」
「さぁ……グローガンさん……これが、『奇跡』ってヤツっすかねぇ? 」
「ど、ど、どうなっているんだ? なぜアスラが我の命令を聞かない? 戦おうとしない!? 」
うろたえる男に、俺は告げた。
「『慈愛神』の加護だ。『平和』の奇跡って知ってるだろ? 無意味な戦いを収める力さ」
「き、貴様ぁああああ? 『慈愛の女神』の『使途』かああああああああああ??! 」
はぁ。まったく。うちの女神様も意地悪ばかりしやがる。
『百八の腕』を使って俺たちを救い。
全ての力を失って身体の大きさまで縮んだ赤子に俺は微笑む。
「アスラ、がんばったな」「きゃ きゃ 」
「チーアさん。ご両親とアスラ君のことは」「任せた」
さすがグローガンの手下ども。呆れる逃げ脚の速さである。
呆然としていた『しんえんなるうみ』は反応が遅れたらしい。
「ま、まてっ? 」「待ちません! 」律儀だな。お前ら。堅気になっちまえ。
「こっから先はさ」俺は奴を睨む。
「子供には見せられません」ファルコがそういって微笑む。
「落とし前、つけさせてもらうぜ」ロー・アースとグローガンたちが武器を構える。
「へんしんっ! 」
ファルコが腕を大きく振るい、ポーズをとる。
白く輝く短剣をもち、黒く燃える盾を持って俺の前に立つ。
「神に逆らう愚かものどもぉぉっ?!!!!!!!!! 名を名乗れぇぇえっっ!! 」
巨大化して襲い掛かってくる『しんえんなるうみ』。
誰かって?
……。
……。
「覚えておけ」「俺たちは」三人で一斉に叫ぶ。
「「「 『夢を追う者達』だっ!!! 」」」
「『神』に逆らう愚か者どもぉぉ?!!!! 死ねぇえぇぇっっ!!!!! 」
『舐めたこと抜かすなぁあああああああああっ!!!!!! 』
一斉に叫び、俺たちは奴に挑みかかる。