7 私の息子です
「でさ。グローガン」
鈴の玩具だかデカイ鐘だかの特注品の一撃から蘇生したグローガンを三白眼で眺めながら俺は問う。
「な、なんでやしょうか? 」
いや、確かに回復魔法を使うのを愚図ったけど野郎20人そんなかしこまらなくていいから。
「もうちょっとゆっくりするの~」「へ、へぃ」
グローガン達はわかるがなんで貴様まで正座。ファルコ。あとその茶はどっから出した。
あと、茶を一緒にすするな。野郎二十人。
「結構なお手前で」「そちゃなのの」お前もか。ロー・アース。
「グローガン。単刀直入に聞きたいのだが、アスラだ」「なんだ? ロー・アース? 」
時々思うんだが、何で俺だけチーア『さん』なんだろ。コイツ。
ロー・アースはさして関心がないように背中を掻きながら問う。
「あ。そこ」……見るとファルコが背中を掻いてやってる。痒いところに手が届く奴である。
「赤子泥棒ってどういうことだ? 」
そうなのだ。あの夫婦。確かに「息子」ってアスラを呼んでいる。
「俺たちは赤子泥棒から子供を奪い返してほしいとしか」若い手下が一言。
「俺も」「俺も」「いい仕事っぽかったし、敵はそこそこ強いらしいからロープや網を用意して」
さしもの俺たちもまともに戦って20人もの人間を同時に相手にはできない。
ロー・アースには眠りの魔法が、ファルコは類まれなる俊敏性があるから20人を各個撃破できるだけだ。
個々なら素手だったのでやばかったが、三人いるときに襲ってきても眠りの魔法の餌食である。
殺す気でもその気がないとしてもロープを大量に用意するのは無難な案だと思う。
しかし。
正しい結婚を守護する慈愛神はその使途に貞操を守るための加護を与えてくれる。
一部の高司祭級の使途が持つ、家や神殿に瞬間移動して逃げる祈祷の下位祈祷で、
捕縛や押し倒されたりしたときにそれらを強制排除できる祈祷というなんともアレな加護。
ロープを強制排除した俺は背後からグローガンの後頭部を火打ち石の鉄片で思いっきりぶん殴った。
たまらず気絶したグローガン。残る20人はことごとくロー・アースの『眠りの雲』に囚われ、
アスラとファルコがキャッキャといいながらペチペチ叩いたり轢いたりして倒してしまった。
俺たちの努力の甲斐あってアスラは昨今機嫌がいい子に育っている。
機嫌よく『ころころ』と転がるだけで軽く百キロの巨体が周囲を押し潰すけど。
そして、今に至る。
「そうっすよねぇ。おかしいっすよねぇ」
手下どもも不思議そうにしている。
ちなみに、こいつはアスラにじゃれられて百キログラムの重みでつぶれた。
鐘の玩具の一撃で頭蓋骨が陥没して命の危機に陥ったグローガンといい、ファルコの頑丈さを痛感する一件だ。
「疑問はもうひとつある」
「おっちゃんたち、どうやってこの家にこれたの? 」
確かにこいつ等、『まぼろしのもり』に時々掃除を無理やりやらされているが、
『まぼろしのもり』がその気にならない限りこの館にはこれないはずだ。
『イルジオンの館』の瞬間移動で俺たちは来ているのであって、
この館の具体的な位置は俺たちですら知らないのだ。
「うん? なんか、依頼人がごにょごにょ言って、扉の玩具をあけて『この先だ』とかなんとか」
いやな予感がする。
「その、依頼人だが。どんなやつだった? 」
ものごっつい、嫌な予感がするが聞かざるを得ない。
「私の、叔父だ」
苦悩にその美しい顔を歪ませる長身の青年と美貌の女性が現れた。
「アスラは、叔父が『作った』子なんだ」
俺たちは真相を知った。その恐ろしい真相を。
「確かに、おなかを痛めて産んではいません。でも」
美貌の女性は続ける。
「アスラは。私の息子です」