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6 アスラ

 「アスラちゃーん。いいこいいこ~♪ 」だぁ。だぁ。

言い忘れたが、この赤ちゃんの名前はアスラって言うらしい。

あやしているのは確かにファルコなのだが、ファルコの倍のサイズ。

すなわち体重にして彼の八倍は軽くある。


 「しっかし、慣れるもんだなぁ」「だな」

気がついたらこの赤ちゃんの世話を片手間にするようになって何ヶ月もたった。


 ララさんにもらった子育てメモはボロボロになってきている。

「この仕事も長いなぁ」俺がため息をつくとロー・アースは欠伸アクビで返した。


 「気がついたらさ」「ん? 」

ロー・アースの眠たそうな顔が大写しになって思わず目を逸らす。

「結構、楽しくなってきたわ」「そうか。俺もだ」「ぼくもっ! 」

斬ったはったする俺たち。血の臭いが取れない気がするが、アスラは俺たちに懐いてくれるようになった。


 前は顔を合わせるだけで泣き出した。

徐々に顔をあわせて泣かして、顔を逸らして黙るようになった。

気がついたらすっかり懐いている。正直、親戚の子供のように可愛い。親戚いないけど。多分。


 この数ヶ月の間に色々あった。

聖騎士どもと大喧嘩したり、猫探しと思ったら魔猫探しだったり、

暗殺者と戦い、ララさんたちに出会い、ミリアの家の世話になったり。あとアンジェ。


 「アンジェが口きいてくんねぇんだよ」

「なにを唐突に」「ちぃやが悪い」

そりゃ、言わなかったのは悪かったけど。あれだけうるさいのがここ3日は口利いてくれないのは。

きっかけは勿論、俺たちの『結婚』にある。いや、ホントに結婚したわけではないのだが。


 「ちぃ。ちぃ」

あはは。よしよし。俺は巨大な哺乳瓶を持つ。

お乳はでねぇからこれで堪忍な。


 「そういえば、グローガン達は? 」

結果的に俺たちの結婚はうやむやになり、

罰?としてファルコと結婚式場を襲撃したヤクザ者一家は各神殿の掃除補修のタダ働きをすることになったのだが。


 「んとね」

ファルコはにぱぁと笑った。

「いま、外に来てるよ? 」


へ?!


 屋敷の戸が乱暴に開かれ、アスラが大泣きをはじめる。

「この赤子泥棒がっ?! 観念しろっ! 」

武装していない俺たちに網とロープが降りかかった。


……。

 ……。


 「何か言うことはねぇか? 」

ブチキレている俺に正座して「すいませんでした。チーアさん」と呟く大の大人20人ほど。


 前はボコボコにされたが、この数ヶ月で俺たちは幾多の修羅場をくぐり、実力を上げている。

それに、かつて素手で彼らを抑えたファルコやロー・アースが加わっている。要するに、負けるわけが無い。


 「アスラが泣きやまねぇじゃねぇかっ?! 」

激しく泣く巨人族の赤子はますますデカくなっていて、暴れだすと手がつけられない。

「すいませんでした」そういって半泣きになっている禿頭の大男。グローガン。

知り合いのヤクザ者一家を束ねる男である。


 「あ~。『ドゲッザ』はしなくていいから。たてよ。グローガン」

危うく頭やってるヤツの頭を下げさせかけてあわててグローガンを立たせる。

コイツ、この数ヶ月でめちゃくちゃ態度が変わってきている。豹変に近い。

「かたじけねぇ」そういって彼は立ち上がると。


 「あばば~。アスラたん~? 」

……。今までで、一番醜い物を見た気がする。


 変な顔をして赤ちゃんの機嫌を取るヤクザ者のボスにおれたちもヤクザ者どももドン引きである。

しかし。


 「きゃ♪ きゃ♪ 」

泣き止んだ。


 「おーし。おーし。可愛いな。アスラたんは」

そういって背中からアスラをあやすグローガンに俺たちは開いた口がふさがらない。


 「……どーなってるの? 」

「俺たち、シマの共働き夫婦の子供の面倒を見ることもあるんす」

シマ代を取るだけではないらしい。少し見直した。


 「しかし、アレはなんとかしろ」

変顔を連発したり、ぶん回されそうになるのを避けつつも赤ん坊をあやす禿グローガンを見ると精神的なダメージが凄い。


 「ええ」「グローガンさん。チーアさんがドン引きっすよ」

「俺が子供が好きで、悪いのかっ?! 」

グローガンはそういうが、情け容赦なくファルコを袋叩きにしたりする男である。

意外とか、そういう問題ではなく、『別の意味』にしか聴こえない。


 「ぐろーがんのおっちゃん。あすらくんは男の子だよ? 」

「ファルコぉ……。お前、地味に恨みに持ってるだろ」

禿の筋肉達磨はそういって肩を落とした。


 アスラはご機嫌でグローガンの手下が持ってきた巨大な鈴の玩具で遊んでいる。

あ、鈴の玩具がグローガンを直撃した。アレは死ぬぞ。

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