3 出会い
3 出会い
「きっれ~い!!!」
ファルコは嬉しそうな声を上げた。
彼の手には先ほどロー・アースが川に投げ込んだ筈のペンの先が握られている。
空にかざし、綺麗な茶色の瞳でペン先を覗くと、さまざまな色がきらきらとこぼれるように輝いた。
「なんだろ?コレ???ガラス??」
ガラスはドワーフの秘法で生み出される宝石の一種で、
美しいのみならず腐食に強く、自由に形状を変えることが出来る。
先ほどすれ違った二人組のうちの一人から「へんなもの」の匂いを感じた彼は、
すれ違い際に「へんなもの」のにおいのする物を観察しようとそれを『借りた』のである。
一応、「へんなもの」のにおいがあまりしない棒の部分は元のポケットに戻しておいた。
彼にとっては「へんなもの」のにおいを感じた故のほぼ無意識の動きであり、
結果的に無断で『借りてしまったが』一応返すつもりはある。
……彼の記憶力が持てば。の範囲だが。
「さっきの兄ちゃんたち、何処いったかな?」
彼のスリの技術をもってすれば、
人間に気づかれずに再びペンを掏り取ってペン先を付け直してポケットに戻すことなど造作もない。
(別に習得しようと思ったわけではなく、まったくの生まれつき。因果なものだが種族全てにある)
相手が今時珍しい生粋の貴族だったり、
百戦錬磨の傭兵かつ古い意味での貴族でもない限りは。
ファルコがてくてくとあるいていると、妙な人の流れが見えた。
先ほどの青年の一人が手を動かしている。
手の動きから小さなビンのようなものを持っているようなのだが、
彼の知覚をもってしてもビンを持っているとは思えない。
だが、青年は存在しない"ビン"を片手に、
驚いたり大声で笑い出したり、楽しそうに話しかけたりしている。
まるで中に目に見えない生物がいて、その生物と会話しているようだ。
周囲の人だかりは彼のその奇行によるものだった。
ファルコは瞬時に飛びついてビンを確かめようとするが、
スッと青年の手が振り上げられかわされる。
青年はファルコに背を向けたまま、"ビン"の中身の何者かと楽しそうに話している。気になる。
"つんつん"
ファルコは青年の脚をつついたが、気がついていないらしい。
「ね、ね」
ファルコは青年に声をかけた。
「ビンみたいなの持ってるみたいだけど、あるように見えないんだけど」
「ほうほう、このビンの中身が坊やは気になるんだね」青年は楽しそうだ。
「わからないとはコレは不幸。こんなに楽しいものは無いのだが」そういって青年は笑う。
ファルコは目の前の"ビン"に手を触れようとするがまたもかわされる。
人間がグラスランナーの反応速度に敵うわけがないのだが、まるで動きを読まれているかのようだ。
「そうかそうか。ふんふん。ははは!君は楽しいな!」
"ビン"に話しかける青年に痺れを切らしたファルコは、
「見せて~!見せて!」
ぴょんぴょん飛び跳ねつつ青年の手元に迫る。
ひょい!と青年の手がファルコの首根っこを掴む。
「じゃ、ペン先を返してもらおうか」そういって笑った。
「ごめん。ちょっと借りた」
ファルコは基本的に正直な子だった。
「無断で借りれば泥棒だ」「ごめんなさい。悪気はありません」
「いーや、お仕置きだ」おどける青年。後ろではワイズマンが楽しそうに笑っている。
「ねぇ」ファルコは不思議な気分だった。
"ビン"を「壊すなよ」と"渡されて"みたが、重さも手触りもまるでない。
慎重に握り、"握りつぶした"が何も感じない。
「コレ、なに?」
「釣りってビンさ」
青年はやる気なさそうに答えた。
「パントマイムってビンさ」
ワイズマンは笑った。