エピローグに変わって。チーアの酒癖(三人称)
ちょっと時間は遡る。
「……なぁチーア。呑みすぎじゃね? 」
チーアに酒を無理やり呑ませた当事者の盗賊はチーアから器を取り上げようとするが。
「……」チーアはすばやく手を振り回し、かわした。
酒が隣の人にかかり、チーアに抗議するが、チーア本人はまるで気にしていない。
「もう、やめとけ。二日酔い間違いなしだぞ」ロー・アースも止めに入る。
ファルコはチーアに酒をかけられた男にチーアに代わって謝っている。しかし何故にテーブルの上で正座。
「……」
ロー・アースに答えず、そのままグビグビとエールを呷るチーア。
「いい加減にしろ」チーアの手首をつかんで無理やり杯からチーアの唇を離させるロー・アース。
「なによ」チーアの唇が酒で血色がなくなり、ほのかな桜色から少し青ざめた色になっている。
反面、ちいさくとがった耳と頬は赤い。その瞳は何故か熱を持っている。
「……私に呑ませるお酒はないって……言うの?? 」潤んだ瞳でロー・アースを見つめるチーア。
その目に一気に涙が浮ぶ。信じられない力で両の手を引き、ロー・アースに抱きついた。
「どうせ、どうせ私なんて、がさつで無学で。口も悪くて下品で。男みたいで……ダメな女と思っているんでしょう? 」
ロー・アースの表情が凍った。
チーアの口元から
「……私みたいなガサツな女とは結婚したくないもんね」と小声が漏れたが、
半パニックになっているロー・アースの耳には入らない。
「思っているでしょ……! 」
チーアは泣きながらロー・アースの頬に豪快な張り手をお見舞いした。
「私だって……私だって……たまにはおしゃれしたり、可愛い服着たり……したいわよ! 莫迦っ!
この鈍感っ! 莫迦っ! 莫迦っ! お酒くらい……良いじゃないっ!! ……ロー・アースのばかぁ!!! 」
凍りつくロー・アースと周囲。
しばらくして一気に騒ぎが加速した。
「お~~! お前らそういう関係???!! 」「なんとっ? 」
やんややんやの大喝采。必死で否定するロー・アース。
ファルコは……遠くで無視を決め込んで茶を啜っている。意外と賢いヤツだ。
「チ、チーア、お前……! 遂にっ! 遂に女装願望に目覚めたかっ!!
……! フッ! むしろ……むしろ歓迎だっあああっ! 頼む! ドレス着てくれぇ! 」
男はそのまま抱きつこうとするが、
股間を思いっきり蹴られて気絶した。酔っ払ってもチーアはチーアだ。
何度も何度も言うが、チーアは周囲には『男』で通っている。
レッドとファルコとフレアは意外と口が堅い。
「ひゅーひゅー♪ 熱いねっ! 熱いねっ! お二人さん! 」
「ロー・アースっ!! てめぇ女に興味ないと思っていたらやっぱりかっ!! 死ねっ! 死んで詫びろっ! 」
すっかりホモ疑惑が浮上したロー・アース。
この後日『美少女』と彼が結婚式を挙げることを、彼らは知らない。
美味い酒の肴に加えて楽しい会話の肴が加わり大喜びする『五竜亭』の猛者たち。
「なによっ?? からかわないでよっ! 私がっ! 私がどれだけ傷ついてると思ってるのよっ! 」
涙を流しながら切れたチーア。
同時に地震が周囲を襲い、店内に暴風が吹き荒れたかと思うと吹雪が発生。
光が飛び交い闇が襲い掛かり、あちこちで発火現象がおき。
大騒ぎする店の者たちを今度は津波が押し流す。
「ばかぁ……ばかぁ……みんなのばかぁ……。すやすや……」店の酒場の真ん中で泣きながら幸せそうに眠るチーアを凝視する冒険者たち。
「三人とも片付け。宜しくね」アキは天使のような微笑みを浮かべながらチーアを抱きかかえて店の奥に消えていった。
「二度と呑ませるな」「だあね……」「すまねぇ……」
ロー・アースとファルコ、レッドは大きく肩を落とした。
もし、郊外の森の中に小さな冒険者の店を見つけたら。
もし、君が叶わぬ願いに苦しんでいるならば。
迷うことなく彼ら、『夢を追う者達』を指名して欲しい。きっと、願いは叶うから。
……ただし、『余計なオマケ』がつくことだけは、甘受してほしい。
運命を切り開くのは、結局『あなた』自身。
彼らはその手助けをするに。過ぎないのだから。
(Fin)
最後、チーアがキャラ崩壊してますが、
彼女は酒呑んでいるときだけ女の子っぽくなります(しぐさも)。
逆にシラフだと恥ずかしくてできないっぽいです。
作中でよくわかっていないポチが最初の依頼人、ゼムのところから逃げた理由ですが。
猫かわいがりがあまりにもキモすぎて耐えられなかったというだけです。
別に友人の家を潰そうとしているから義憤に駆られてとかではありません。
それに加えて巨大猫状態で散々可愛がりを食らい、
イヌハッカ棒攻撃で愛想を尽かしたのでチーアたちを炊きつけて潰しにかかったのが今回の真相です。
皆さん動物は大事にしましょう(?)。