13 不実な冒険者と怒りの猫パンチ
女は自滅した。あとはあのエイもどきだけだっ?!
「いくのっ! 」「ああっ!! 」
俺は残る矢を一斉に射ち込む。苦悶するエイもどき。
次々と襲い来る体液を、触手を防ぎ、かわし、避け、機会を伺うファルコ。
「こ い !! 」動きを止めたファルコに殺到する触手。
だが。
ぱぁっ!!
花のように触手が体液を撒き散らして吹き飛ぶ。
ファルコの短剣がその攻撃をすべて斬り飛ばしたのだ。
ファルコを喰うために飛び掛っていたエイもどきは
そのままファルコを食おうとありえないほど巨大な口になってファルコに覆いかぶさろうとする。
「ファルッ! 」
!!!!!!!
巨大な口もどきが爆発する。
そして、その口を突き破って飛び出す影。
影は大きく倉庫の天井を蹴ると、短剣を手に一陣の風となってもう一度口もどきに襲い掛かった。
「てぇえぇぇぃぃ!!! 」ズパァァアァ!!!!
……。
……。
みゅ。とファルコは俺たちに微笑んだ。
「たぶんだいじょぶ? 」満面の笑みになった。
俺は奴の掲げた手のひらと自分の手のひらを強く叩き合わせた。
ビクンビクンとのたうつ肉の塊は腐敗臭を放ちつつおとなしくなり、やがて地面に融けていく。
「……あわわ。化け物がぁ~化け物がぁ~」おっさん逃げてなかったのか。
……というかあの状況でよく生きていたな。俺は感心した。
おっさんを取り押さえた俺たちは倉庫から出た。
悪縁のヤクザ連中も無事に逃げられたっぽい。悪運の良い奴らだ。
向こうから慈愛神殿のみんなが駆けてくる。美女の集まりなのでかなり絵になる。
「よくやってくれた。『夢を追う者たち』」
黒猫は楽しそうにつぶやいた。
そして前足を伸ばす。「お手? 」ちょっと可愛いぞ。
「莫迦者。握手だ」
……そうして、ポチは帰っていった。
また普通の猫として暮らすらしい。有望な奴隷を自ら潰してしまったとぼやいていた。
俺は駆けつけてきた慈愛神殿の女連中にもみくちゃにされた。胴上げなんてするな。恥ずかしい。
胴上げついでのドサクサに若干殴られたが由とする。いつぞやの恨み辛みがあるしなぁ。
特に同僚の下級神官。
キスするな! つか服を脱がそうとするな! あ。神官長が殴った。
「今日は借りをつくっちゃったみたいだけど、なんかあったら天罰だからね。邪教徒ども」
正義神殿の聖騎士たちの中央にいる聖なる少女はそういうと俺に軽く投げキス。
それを見たアンジェの顔が一気に赤くなり、怒りを孕む。
あ。
「チーア??! また浮気っ?! 浮気なのっ?! そうなのっ!!?? 」
違うっ!? アンジェッ??! 誤解だっ?!
「あにしてるの……」「まったく」じゃれる俺たち二人をみて、ファルコとロー・アースが呆れる。
俺たちが倒した肉の塊は人々を食って際限なくでかくなるというヤバイ奴だったらしく、
奴隷貿易を抑えた両神殿の神官たちは残る処理を役人や戦神神殿に任せて
『邪悪な気配』を討つべくやってきたが、事前に俺らが倒していたので大事にならずに済んだらしい。
一歩間違ったらと思うと寒気がする。女たちは『死出に向かう海の神』の使途だったらしい。とりあえず役人に引き渡した。
これにて一件落着。
雇い主に牙を向いた不実な冒険者としての悪評は甘んじて受けざるを得ないが、
奴隷にされた人々が少しは浮ばれると思えば。あとは楽器を返却して、カント商会から謝礼を貰おう。
「ところで」ん?
アンジェは粉々になったナニカをみせた。
「これ、チーアの?? 」
それは猫の爪で粉々に切り裂かれ、破壊された高価な楽器だった。