10 小さな舌に陰謀を乗せて
街中をてくてく歩く黒猫。ついていく俺たち。
「カント商会は王族の諜報機関でもある」なるほど。猫の手も借りるわけだ。
何故か納得する俺たち。
「つまり、派手にやっていいと? 」
これは重要だ。ゼム商会に今からのりこんだ後、
衛兵に追われる身になったり、1万2千銀貨を没収されたりしたら俺たちはヤバイ。
「その前に、依頼をもらっておこう」お墨付きは重要である。
黒猫と俺たちは各所を回り、ゼム商会に乗り込む手はずを整える。
……。
……。
「とりあえず、正義神殿から調査依頼、場合によっては強行突入もやむなしの依頼を受けれたな」
ロー・アースと正義神殿の象徴である『聖女』は仲が良い。
ので、こういう依頼は聖女と上層部の誰かと接触が成功すれば何とかなるそうな。
「盗賊ギルドからは、『うちは関係ない』ってことにするならかまわないって」
……ファルコの親父のミリオン。見た目は髪の毛の黒いファルコだが……アイツ何者だよ。
いや、知りたくないし、知ったら多分俺たちは消されるのだろうけど。
「慈愛神殿からは麻薬は絶対没収しろってさ」
俺、さりげなく高司祭さまの「友人」ってことになってるからなぁ。秘密だけど。
「なかなかやるではないか。
こちらも金貨を受け取った愚か者どものリストアップは済ませた。
なにかあったら王家の後ろ盾がある。しっかりやれ」
ありがたいことです。
「行くぞ。奴隷ども」
「「「にゃ~! 」」」やけくそで俺たちは猫に従った。
とある薄汚い倉庫。ここにゼム商会の主はいるという。すごい調査能力だ。さすが猫。
「麻薬の現場を押さえるだけで良いのか? 」「ああ」
異国との奴隷貿易のほうは警備が多く、俺たちには手があまるらしい。
「『悪意の鍵』という麻薬だ。それさえ押さえればよい」
慈愛神殿と正義神殿の皆は無事に奴隷貿易の現場についただろうか? 喧嘩してないよな?
……。
……。
俺たちから離れ、一人倉庫街を歩きながら竪琴をかき鳴らすファルコ。
周囲に警備の連中とおぼしき奴らが集まってくる。
「坊や。こんなところで何を?? 」「やけに上手だな。今夜いくらだい? 」
ファルコは答えない。そのままテクテク歩いていく。
「おいっ? 待て餓鬼??! 大人舐めんな?! 」
襲い掛かる警備の連中だが、ことごとく避けられる。
「脅えなくていいぜ? いいことしようぜ? 」
ハァハァ言うおっさん数名を尻目に倉庫の方に逃げるファルコ。
「まちなよ?? あははっ!! 」
凶悪な面構えの連中がファルコを追っていく……。
「いまだ。侵入する」
ロー・アースが合図する。俺たちは彼らの後を追って倉庫に。
「ららら~♪」
倉庫に入るとバタバタと倒れている荒くれ十数人。見事に『眠り』の呪い歌に捕らわれている。
「またグローガンか」知り合いのやくざ者一家なのに気がついた俺はとりあえず踏んでおく。
「ぐべ」
幸せそうな笑みを浮かべて寝ていたグローガンは見事に気絶した。
いい加減懲りろよ。お前等。
……。
「間違いない。『悪意の鍵』だ」ロー・アースはニヤリと笑う。
「当然だ。我が眷属の調査能力を侮るな」ポチはえらそうに言うが。
「この香りは我が魔力を阻害する」マジ???
「暗黒魔法の力を感じるな」……闇司祭だか黒魔導士がいる可能性があるってことか。
製造現場を様子見すると、あのおっさんと娼婦っぽいおつきの女、それから黒ローブの怪しい男がいる。
「出て来い。ネズミども」黒ローブがつぶやいた。
「ねこです」ファルコがのんびりと答えた。