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4 瞳輝く暗闇

 「『眠りの雲』」

みゃあみゃあ言う猫たちがバタバタと倒れて沈静化する。

ロー・アースの魔導だ。


 「た、たすかったの」

う、うん。俺もびびった。町の人たちは大混乱してるし。

「可愛そうだから踏むなよ」あ、ああ。解った。しかしなんでこんな数の猫が襲ってきたんだよ。


 ああ。ロー・アースはニヤリと笑った。

「その楽器の胴に張られている革は猫の革なんだ」……。


 ……つまり、俺は猫に喧嘩売ってたって言いたいのか? お前?

「だから、やめておけって言ったのに」……先に説明しろよな……。


 「うみぁぁあぁっっ!!!! 」

ものすごい悲鳴を上げて逃亡する猫の波を見ながら俺は怖気を止められなかった。


 「今回は難敵みたいだぜ」いいから説明しやがれ。莫迦。

「猫を統率する能力をもった『ナニカ』らしい」……人猫ウェアキャット……か?

有名なのは人狼ウェアウルフだが、人猫ってのがいてもおかしくはない。

「あれだったけ? 伝染する病気の一種で、月の周期に応じて狂気から逃れられなくなるって」

兄貴に言わせると非常に厄介な病気らしい。完全に変形すると普通の猫と区別つかないいだろうし。

「しかし、今はまだ昼だ。人狼の眷属なら夜が本領だろ」……まぁそうだが。


 「わかった! 朝型の人猫さんなの! 」

またファルコが変なことを……。


 ……早寝早起きの猫。すっごい貴重な存在だな。

昼間の猫のかまってくれなさと夜の『遊べ』要求は異常である。


 こっちが眠くても容赦なく乗っかってくるし、

寝たふりを決め込むと頬をやわらかい肉球でぺしぺし叩く。って……???


 「みゅ?」

俺はファルコの顔をマジマジとみてしまった。

「おまえ、実は猫だろ」「はうぃ?」違うか。


 ロー・アースは頭をバリボリ掻きながら俺から謎の楽器を奪い返す。

「ちなみに、この楽器とララさんのご主人の家の猫だが。東方貿易で手に入れたらしい」

へぇ。東方って悪魔の金属こうてつの産地だったっけ。絹や木綿も作るらしいが。


 「じゃ、これ、ララさんのご主人さんの商人さんから? 」「ああ。借りた」

どういうツテで大手商家の主人と直接話できるのか知りたいが、知り合いの伯爵家の跡取り息子様経由だろうか?

「いや、俺がいなくなった黒猫を探しに行くといったら貸してくれた」はぁ??


 「探したり、捕まえるために役立つそうだ」

こんな楽器、どうみても喧嘩売るためにしか思えんが。

壊したらどんな理由であれ弁償しないとだめらしい。そんなもん借りてくるな。


 そう思っていると、ロー・アースの表情が急に硬くなった。

「……行くぞ」「え? 依頼人の猫がもうすぐ通るって??!! 」「……危険だ」


 ……!

……俺は怖気を感じた。街中の路地、小さな側溝、露店のテントの上、小さな柱の上……。

小さな二つの瞳、瞳、瞳、瞳、瞳……。


 「囲まれだしてるの~逃げるの~~~」ファルコがのんびりとしゃべる。

俺たちはそそくさと駆け出した。あまり街の人に迷惑をかけるわけにもいけないだろう。


 「……! 」

素早く橋の上から去った俺たちだが、端々からこちらを伺う目線を感じる。

相手は猫なのだ。何処にだって紛れ込めるし、顔ほどの幅なら何処でも滑り込める。


 「走れ!!! 」「のの! 」「性質悪いぞっ!!!??? こんな依頼受けるんじゃなかったっっ!! 」

かすかな視線は明らかな敵意をもって飛び出してくる。そしてどんどん数が加わって。


 「うっひぃぃぃぃつっっっぃぃぃぃ???!!!! 」

みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。

みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。

みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。みゃあみゃあみゃあみゃあみゃあ……。

路地を走るおれたち。後ろから、上から、側溝から次々と飛び出す猫猫猫……。


 「振り向くなっ!走れっ!!! 」「これはぁ。ぴんちだねぇ~♪ 」

「なにをのんきなっ???!! 」おれは必死で走るが。

……足の速い俺やファルコなら逃げ切れるかもしれんが、ロー・アースは無理なんじゃ?

嫌な予感が現実になる。「前からもっ??!! 」「かこまれたの~♪怖い~♪ 」


 みゃぁみゃぁみゃぁみゃぁ……。俺は眼を閉じた。まさか猫に襲われて死ぬとは思わなかった。

……れれ??

みゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁみゃぁ。

酔っ払ったように上機嫌な猫ども。なにやってるの???

「ふぁっくしゅ! 」なんじゃこの粉は……。「ふゃ、ふゃ、ふゃっくちゅ! 」


 「えっと。ねこにマタタビ(註訳:厳密にはイヌハッカなどです)~って言う粉なの~♪ 」

ファルコがとっさに卵に閉じ込めた粉を振りまいたらしい。

猫だのライオンだのトラだのを酩酊状態にする便利な粉らしい。助かった。

「そ、そりゃいいけど」ふゃっくっしゅ! 「撒きすぎだ」はっくしゅ!!

「健康にいいの~」「こ、これはおれらまでオカシクナリソウダ」びゃっくっしゅ!

「いーこ いーこ♪ 」楽しそうに酔っ払った猫と戯れるファルコ。

てか、この猫泡吹いてるぞっ??! あ。あっちの猫は喧嘩してる。

なんかこっちの猫はコロコロしてるしっ??? こっちはフラフラしてるしっ??

「お、おい。死なないだろうな? 」どう見ても急性アルコール中毒に見えるんだがっ?!

「別の意味で修羅場だな……」ロー・アースも呆れている。


 「よくも我が眷属を……」不気味な声。

「……!!! 」おれたちはいっせいに武器を構える。

前方が揺らぎ、一匹の黒猫が空間から現れる。

その影が揺らぐ。陽炎とともに黒猫は膨れ上がり、鋼鉄の毛と鋭い爪を持ったトラなみのでかい猫に。

……コイツが親玉かっ?


 「ふぎゃ~。ゴロゴロゴロ……」……。

デスヨネ~。

トラ並みの大きさとはいえ猫は猫。本能には逆らえないらしい。

喉を鳴らしながらコロコロ転がり、でっかい肉球のついた前足で地面やら壁やら自分の顔やらたたき出す猫。

サイズが小さければ実に愛らしいが、でかすぎてそれだけでもかなり危険だ。

ロープを取り出して巨大な猫に投げつける。

ファルコがソレを受け取って黒猫をぐるぐる巻きにしていく。

「……楽器、必要なかったな」ロー・アースがため息。これにて一件落着。


 「あとは依頼の猫をとっ捕まえたら一杯やることにしよう」

フレアたちはこの猫もどきの所為で苦戦したんだな。納得だ。


 「シンバット!! 」

これだけのでかい奴、人間が運ぶには無理がある。俺は愛馬を呼ぶ。

「……」巨大な猫(?)を見たおれの愛馬シンバットは呆れたようにいなないた。

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