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3 その毛並みにブラシを

 「ララさん。お久しぶり」

ちょっと緊張する。


 「ロー・アースさん、ファルコ・ミスリルさん、チーアさんお久しぶりです」

「みすみるなの」「あらあら♪」


 ……十二歳の娘がいるはずなのになんと言うチート容姿!??

飾りはあまりないが上質の黒い布、黒い糸で丁寧に刺繍が施されたスカートを身に着けたララさん。


 本当に、本当についこの間まで乞食やってたのか? この人???!!

婆さんに見える格好をしていたのは、乞食やっている間に何度も乞食仲間から襲われそうになったり、目立つ容姿が災いして色々苦労したかららしい。

……確かに金を恵む気にはならんだろうなぁ。女なら石を投げるし、野郎どもならその前に襲う。


 彼女は今や大手商家の娘さんの家庭教師をやっているので、

俺たちのようなヤクザ者と会うのは色々大変だったりする。

その点、正義神殿の聖女おつきの神官ローラからの手紙の威力は絶大だった。


 「ええ。確かに……それもチーアさんのおっしゃる猫さんそっくりのようですね」うん?

「マジっすか???! 」「マジです」あえてくだけた喋り方で楽しそうに答える。


 元男爵家の正妻なのだが、この人乞食やらなんやらやって苦労した所為か、

親しい人相手だとかなりフランクになる。


 「……う~ん。『うちの猫』って言ってたんだけどなぁ」真面目に。

「……少なくとも、今お仕えしている旦那様方には『悪』は感じませんが」余計な力を発揮すな。

正義神の使徒は悪意や害意を見抜く力を持っている。真相までわからんが。


 「ご主人様方もノリノリで向こうから」「どういう状況だっ!! 」

どうみても面白がって片っ端から奇跡を使っているように見えます。

俺もはじめのころはぶっ倒れるまで癒しの力使ったし。


 「わかった! 猫さんに金貨を作らせるの!! 」

急に変な事を言い出すファルコ。


 「……猫に金貨? 」「うんっ! 」

俺が確認すると、楽しそうに跳ねるファルコ。


 「猫さんをいっぱいさらって、にせ金貨をいっぱい作らせるの! 」

……猫がどうやって金貨作るんだよ。


 「なかなかシュールな想像だな」ロー・アースがやる気なさそうに目を細める。

さらってきた猫に鞭をうって金貨の模様を作らせる奴隷商とか。ありえんわ。


 「すごく……斬新ですね」

楽しそうなララさんだが主人の猫ではないのか?


 「解った。ララさん犯人。猫がいなくなってうれしそう」「違いますっ? こういう顔ですよ? 」

必死で弁解するララさんに疑いの目をかける俺を見て、「どっちが悪だ」とロー・アースが言った。


 ……むぅ。しかし誰が。

いなくなった時期的にはララさんのご主人さん一家の猫のほうが先か。


 「歳だから姿を隠した? 」「探しましたが、そうではないようですね。お嬢様が悲しんで」

「やっぱり黒猫かぁ」「です」むぅ。

女の扱いはロー・アースのほうが上手だし、あとは任せるとして。


 ……手持ち無沙汰に窓際を見ると。

……ファルコが窓から顔をみせている。ここ、二階なんだが。

あ、別の窓から顔を出した。お前は猫か。おとなしくしてろ。


 「……!! 」

あ、ばたばたしてる。落ちそうだ。てかマジ落ちそう!


 「みゅ~」「おとなしくしてろっ!」

なんとか窓から引きずり出す。


 二人が驚いた顔をこちらに向けている。

「あ。気にせず続けてください」

俺はファルコのこめかみをぐりぐりしながら精一杯の愛想笑いを向けた。


……。

 知らないうちにララさんのご主人一家の黒猫捜索まで引き受けることになった俺たちだが。

「……やっぱり、件の橋で待ち伏せするのが良いんだろうな」どう考えても蛇足な仕事である。


 「猫ちゃん。こんあ猫しあない? 」「にゃ~」

足元でファルコと通りすがりの猫が戯れている。

時間まではまだあるのでかなり暇だったり。


 ロー・アースはまだララさんと話し込んでいるっぽい。

俺はファルコと一緒に猫が通り過ぎるまで待つ暇な仕事。


 「……フー! 」「ふー!! 」……。

「ぶぎゃー! 」「みゅー! 」………。

「びえーん!!! 」猫に負けるな。つか、何してるんだ。

俺はファルコを捕まえ、癒しの加護を願いつつ、ロー・アースの帰りを待つ。


 「……え”~ん!! 」

なんで熊をロープで捕まえるコイツが猫に負けるのか理解不能だ。


 べんべん べべ べんべん べべべん ……ん?


 謎の珍妙な楽器(リュートに似ているが三絃しかない)を手にロー・アースが戻ってきた。

「準備完了……かな? 」理解不能なので説明してください。


 「コレが切り札になる」……???

外観としては動物の皮を張ったタイコ? ……に棒がひっついていて、三絃が張られている。

弦は強めらしくてコテで弾いて音をだすっぽいが。

ベンベンと鳴らしては調弦をすることで音階を増やすらしい。……しかし。


 「……へったくそ。貸せ」

こんな下手糞にいい楽器を持たせるのはもったいない。


 「やめておけ」使いこなせないとでも思ってるのか?

俺は奴からリュートもどきを奪うと鳴らしてみせてやる。


 「~~~♪♪♪ 」

銀貨100枚の調律もままならない安物の竪琴と違ってなかなかいい音が出るじゃないか。


 「~~~~~~~♪♪♪ 」

気がつくとファルコが足元でぱちぱちと手を鳴らしている。

ぱちぱちと拍手。「素敵な歌声だったわ」と周囲の人々からの賞賛の声。うううう。やっちまった。


 「おい。坊主。今夜いくらだ?」


 俺は失礼なオッサンの顔面をしばいた。

これだから人前で歌うのは嫌いだ。


 「いや、なかなか綺麗だったぜ? 」

「うんうん! ちいや綺麗! 」……う、うっさい。

だから、『あんなこと』があったら意識しちまうだろうが。気づけよっ?! 二人ともっ?!


「しかし、その楽器は高いから大事にしろよ? 」へ???


 ずごごごご。

どどどどどどどどど。


???

………??


 にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ

にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ

にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ

にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ


なんじゃこりゃああああああああ!!!! 俺の絶叫は猫の海に呑みこまれた。

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