エピローグ。結婚するって本当ですか
「お~い! ファル!! 」
下から手を振る。ファルコは元気に手を振っている。
「おしおきをうけて、各神殿の外壁掃除するの! 登ってみたかったの! 」とファルコが言い出した。
勿論、皆それが嘘だと理解していたが、あえて黙った。
各神殿の長たちも低価格で神殿が綺麗になる提案に黙るしかない。
よって、事件はいたずら者の草原妖精の放言に踊らされたヤクザ者たちが悪さしたということになった。
破壊の女神の使途どもの所為と言う事実は「童貞に悪い奴はいない」と断言する参列者たちの鉄の黙秘によって封殺された。
正義神殿に漏れたら大事だったが、マジで皆口が堅かった。
『暗殺の雲』と戦って死に掛けたのに皆温厚すぎるだろう。
破壊の女神の使徒どもだが、今はうってかわっておとなしい。
どうも新たな世界に目覚めたらしい。アンジェに謎の本をもらっていたが……深くは聴かないことにしておく。
一番の被害者は自業自得とは言え神殿を襲う暴挙を行う契約祈祷を食らった上、
罪を全部かぶることになったグローガンたちなのだが。
契約祈祷云々は綺麗にもみ消され、何らかの呪いを受けた結果となり、
絞首刑を免れ、ファルコと奉仕に努めるハメになっている。
ヤクザの癖に妙に真面目な仕事っぷりだ。そのまま堅気になってしまえ。
「はっ? 別にかまやしねぇ! 」とサバサバしている連中だが。
お前ら……童貞だったのか??! あんだけレイプ未遂ばっかりして、童貞だったのかっ??!
(そういえば本当に犯しているところを見たことが無い)
「童貞ちゃうわっ! 」とグローガンは叫んだが。
「じゃ素人童貞」「ぐっ! 」はい。完膚無きまでに論破。
「チーアさん! もうちょっとで終わりますっ! 」はいはい。
俺たちの婚約……うやむやになった。
……と言うか、俺たちの婚約すらファルコのイタズラということで決着がついた。
なんせ俺たち、世間的には『男同士』だからな。
高司祭さまに売り上げの大半をふんだくられ、
実は男同士の結婚という茶番だったと知った参列者たちに本気でボコられたダブ屋連中はマジで哀れだ。
俺たち二人はファルコに「脅迫」された扱いになったらしい。
まぁその。俺たちが恨まれない配慮なのはわかったが。
「良かった! 良かった! 良かったなっ! チーアぁぁぁっ!!!! 」
知り合いの盗賊のレッドが最近ガチで五月蝿い。……泣いてるし。
何か嬉しいことでもあったのだろうか? 本気で気持ち悪い。
「チーアさんは何処かしら(ニコニコ)」
「チーアッ! チーア! 結婚なんて許さないわよっ??! 」
「チーアを出しなさい」「チーアは何処ですか」
同僚の神官のアンジェを含む慈愛神殿の女どもや
知り合いの女連中その他大勢が殺気立って俺を探している。
ほとぼりさめるまで必死で隠れているうちにいつの間にか「姿隠し」の精霊術を体得していた。
……。
……。
「で。この焼き立てのクッキーだけど」アキが微笑む。
一斉に奪い合いの体制に入る俺たち。一瞬即発。
「全部ファルちゃんのだから」えええええええええええ???
「文句ないでしょ? 」
そういって微笑む。確かに今回大活躍だったのは彼だ。
「なぁ。俺らには? 」「な・し♪ 」
えええええ???
「おいし~~! のっ!!! 」
おいしそうにクッキーを頬張るファルコ。
「なぁ。俺らにも」「ふたりとも仕事してないのっ! 」ええええっ??
「ちょっとはくれよ~! 」「悪い。ファルコ。一口分けてくれ」
ファルコは天使のような笑みを浮かべて。「だぁめ♪ 」
俺たちの哀願を他所に、最後のクッキーは見事に奴の腹に収まった。
もし、君に悩み事があるなら。
もし、届かぬ願いがあるなら。
もし、小さな森の中に奇妙な形の冒険者の宿があるのを見つけたなら。
迷うことなく『俺達』を指名して欲しい。きっと願いは叶うから。
ただし、『余計なオマケ』は自己責任で!
(Fin)
次回予告。
次なる依頼は『猫探し』。
「いい加減にしろっ?! 」
キレるチーアだけど……。
おいおい。いいのかい?
今回はベテラン冒険者も取り逃がした難物ですよ?
次回。「肉球ぷにぷに。しっぽふわふわ」。
お楽しみに。