11 なぞの……いや。いうまい
「結婚は、正しき創造の神も認める行為ですよ。『破壊の女神』の使徒殿」高司祭さまの声。
……その……。
「それを妨害するとは、少々不躾ではありませんか? 」
……あの……。
「……失礼ですが、貴女は? 」
空中の『破壊の女神』の使徒が呻くように尋ねたのは「聖なる光」の影響だけではない。
なんとか扉を開けたジェシカ(足で蹴破ってきた)が「なっ?! なんと破廉恥な!! 」と叫ぶ。
「正しい結婚を守護する正義の仮面の戦士。白薔薇仮面ですが? 」
……なんすかその羊皮紙でできた御手製の恥ずかしい目隠しは?!!
なんすか、そのくそ怪しいコスチュームはっ??!!
どっからとりだしやがりましたかその真っ白なマントは??!!!!
「高司祭さま。なにをやっているんですか」思わず呆れて呟いた。
「ち、ち、ち、ち、違いますよ??! 」
あわふたと慌てふためく高司祭さま。あの服の下にこんなもん着てたんかい。
参列者の皆様は幸運にも俺の「聖なる光」の影響でまだ失明中。
その上を視覚を奪われて混乱した莫迦伯爵家親子が放った強烈な眠りの雲が覆う。
莫迦親子。見事に退場。すやすや眠る。
「……ソフィアナ。たまってる書類任せたわ。私、サボタージュするね」モニカが宣言する。
「高司祭さま。あとで鉄拳です」ジェシカが小声で呟くと(何故か耳元に入ってくる)
あわふたしだす白薔薇仮面(仮名。とりあえず)。あ、泣きそうだ。
「ち、ち、ちがいます! ちがいます! 私は白薔薇仮面さんです! 」うそつけ。
「……まさか、祭壇が爆発したのは」
「違いますっ?! こっちのほうは私ではっ??! 」
……やっぱり土壇場で妨害する気だったかっ??! 見損ないましたよっ??!
「武器が壊れなくて良かったぜ」
状態保持の魔法がかかっていた。助かる。
ロー・アースから弓を受け取ると、邪魔なスカートを破り捨てる俺。
一瞬、おれの脚に見とれた莫迦な敵に弓を撃つ。
殺傷力の無い特殊な矢はそいつに見事にぶち当たり、そいつは気絶した。
快哉を叫ぶのはその矢を開発した変態医師。
そのままおれの脚に潜り込もうとするので踏みつけて黙らせた。
「行くぜ」「うんっ! 」「ああっ! 」
二本の剣を抜くロー・アース。短剣を構えるファルコ。
儀礼用兼実戦用のメイスを握るモニカ。大きく足を開き、息吹と共に構えるジェシカ。
下級神官たちや神官たちもそれぞれの獲物を持ち、参列者たちも適当に武器になりそうなものを握る。
「太陽剣! オーロラプラズマ返しっ! 」
「「「……」」」一気にしらけた。
……恥ずかしい技名と共に剣を頭上で振り回し、
虹色の輝きと共に振り下ろす高司祭さま……もとい、しろばらかめんさん(仮名)。
それを受けた『暗殺の雲』どもはまとめて消滅。
「ソフィアナ。なにやってる」「ち、ちがいますっ?! ロー・アースさま?!! 」
……あきれ返るロー・アースだが。俺はもう何も見てない。見てないぞっ?!
だが、次々と亡者が沸き立ち、彼女を囲おうとする。
「こちらはお任せを」ニコリと微笑み、しろばらかめんさん(仮名)とモニカ、ジェシカが亡者どもに立ちふさがる。
「腕が鳴りますねっ?! 」「私の祈祷はっ! 世界一ッッィィィ?! 」
「はじめに言っておきますが。……わたくし、かなーり! 強いですよ? 」
……ノリノリすぎる。あの三人と慈愛神殿の皆さんはほっておいて大丈夫そうだ。
あっちでは新手の『暗殺の雲』相手にエイドさんが無双っぷりを発揮……ってそれ素手やっ?! なんで効くねん??!
勿論、うちの親父も負けていない。片っ端から殴る殴る蹴る蹴る。
ワラワラ沸いてくる雲どもをボコボコ殴ってヤクザキックで踏み砕くうちの親父とエイドさん。
やっぱり親父には常識がないっ!??!
「おのれっ」
空中で強大な魔導を唱える破壊の女神の使徒。闇司祭であると共に闇魔導士かっ?!
「!!! 」急に地面に落ちる。「くすくすっ」子供の笑い声。
パクパクと口を開け閉めするが。『沈黙』の精霊術??!
あわててフレアとシルバーウィンドの姿を探すが、二人は『暗殺の雲』どもと激しく戦っている。
……誰がっ? 「くすくすっ。がんばって。『御義姉ちゃん』」??!
耳元で一瞬声がした。ひょっとして?!
「チャンス!! 」「お。……おうっ! 」「うんっ!! 」
闇司祭に殺到するロー・アースを地面から湧き出す泥の魔物が止める。俺の弓が魔物を捕らえる。
「ファルコッ!!! 」「うんっ! 」
ダダダダダッ!! 地面を蹴る音が豪雨のようにひびくが、ファルコの動きは肉眼で捉えられない。
「らんなーぁ!!!!!! きいいいいいっっっくぅぅっ!!!! 」
魔導結界を展開した闇司祭を結界ごとその蹴りは吹き飛ばす。
椅子を吹き飛ばし、明かり取り窓を一部ふっとばして飛び出す闇司祭。それを追うファルコ。
「シンバットッ! 」
白い馬が姿を現す。勿論いざとなったら会場から逃亡するために用意していたのだが。
「逃がすなっ! 」
泥の魔物はロー・アースに任せ、俺は愛馬の背に飛び乗り、ファルコと闇司祭を追った。
……。
……。
剣を抜いた闇司祭(多芸な奴だ)とファルコの戦いは最終局面に達している。
撹乱戦法を取るファルコに冷静に剣を突き出して対応する闇司祭。攻めあぐねるファルコ。
「おい。オッサン! コレを見やがれっ! 」
走る馬上に曲芸乗りで立ち、スカートをおもいっきりあげてやる。
ちなみに、結婚式用なので下着は無い。
「??!!! (ブッ)!!!?? 」
振り返りざまに壮絶に噴いた奴を、ファルコは見逃さなかった。
「じしゅきせいっ!! なのぉぉぉっ!!!!!! 」
強烈な膝蹴りがおっさんの顔面に炸裂。オッサンは大量の鼻血を噴出してぶっ倒れた。
ちなみに、蹴りは頬を捉えた。つまり、鼻は無事だ。
にやっとわらって奴に親指を立ててみせる俺。ニッコリ笑うファルコ。
「パァン! 」綺麗にハイタッチ。
馬上から彼を担ぎ、オッサンを縛り上げ、慈愛神殿に駆ける。
ファルコが唐突にぼそっと何事かつぶやいた。
「……コドモだね」
ぶはっ!!!!
……毛、毛くらいいつか生えるわっ!! 生えないらしいけどっ??!