10 破壊の女神の使途たち
「高司祭さま。ごめんなの。武器もってきちゃった」
ペコリと頭を下げるファルコ。なぜ正座。
震える俺を抱きかかえて微笑む高司祭さま。
「おもいっきりやっちゃってください」
「あ。出来たら外でお願いしますね」「うん! 」
小さな拳を強く握り。大きく構え。手を振るファルコ。
「へんしんっ! 」正装がいつもの網目入りのチョッキとブカブカのズボンと半そでになる。
小さな愛らしい形の短剣は白く輝き、黒い盾は炎のように輝く。
「……仕込みはしておいたが」よくみると祭壇の上の布はロー・アースのマントだ。
確か魔導強化された蜘蛛の糸と繊維化されたサファイアで出来た装甲繊維。
それをふりまわしてファルコがかばいきれない攻撃を防いだらしい。
砕かれた祭壇の下には。俺たちの武器。
いつの間に避難したかロー・アースの後ろで花をもっていた少女が消えていた。
「おにいちゃん。がんばってね」
「お前も抜かるな」「ふふ。がんばってくる」
なぜか少女の声が聞こえるが、姿隠し??! 難易度の高い精霊術だぞ?
「なっ? ブラフ??! 」
やっと事態を把握したモニカが叫ぶ。
この場にいる慈愛神殿の戦闘員は俺とモニカと高司祭さまだけで、
他の戦える連中は参列者含めて絶賛リンチ参加中である。
……と。いうか。儀式参加中の神官どもも消えているんだが?! 不祥事だろっ?!
「だいたい、先回りしてふだんしらべてるろぅがさ。ほとんどうごいてないんだもん」
しごとふえちゃったねぇ。とファルコがぼやく。
そういえば二人とも無理やり結婚という人生最大のピンチで花嫁7人がどうとか、
事件の裏とかまったく調べてなかった。
「反省してます」
おれとローがファルコに頭を下げる。
「はんすうするの」おれらは牛か。
脅える参列者たちがいつのまにか閉じられた扉を必死で叩くが、扉は開かない。魔法かっ?
「任せろっ?! 」ワイズマン親子が火球爆裂をぶっぱなそうとするので参列者の中で冷静な連中が必死で止めた。
……あの親子は、化け物より始末に悪い。
「アホっ! 開錠の魔法だっ?! 開錠!!俺たちを殺す気かっ??! 」「すまない」「悪かった」
庶民相手にも気さくであるが、やっぱり根本的にアホだろっ?!
「茶番はそれまでかな? このまま全員、我らが偉大なる真の創造神の生贄になってもらう! 」
会場の上に浮遊する影。人間が飛んでいる!?
「……破壊の女神の使途……ですか」俺を抱きしめる高司祭さま。
異臭を放つ緑の煙が次々と現れ、絞首紐を持った人型を取る。
如何なる場所にも侵入し、魔法のかかった武器以外では傷つかないという暗殺の雲ども。
悪意ある魔導士どもに生み出された『破壊の女神』に従う魔物である。
「……ぼくは。みかたなの」短剣を手に構えるファルコ。
「ろぅ?! 」
ロー・アースが魔導強化を唱えるとファルコの短剣が光り輝く聖なる剣になる。
「チーアッ! 受けなさいっ!! 」
モニカが叫ぶ。俺に暖かい光が差す。
「貴女は私が護ります」
高司祭さまが優しく微笑んだ。とても……温かい。
「任せろっ?! 雷撃……」「あんたらは座っててくれっ??! 」
火球爆裂だろうと、雷撃だろうと氷雪の嵐だろうとこの親子が暴れると碌なことがない。
「……光の矢より強い直接攻撃魔法は。禁止だ」「「なんだと?! 」」
ロー・アースの抗議に残念そうにする二人。周り巻き込む魔法使うな。莫迦伯爵親子。
ちなみに光の矢は最も威力に劣るとされるが、狙った獲物を確実に捕らえる恐ろしい術だ。
下手糞が唱えても殺すにはいたらない上、一、二発で息切れするが。この親子の場合。
「……この程度か? 」「……たいしたことはないな」
むしろ手加減しないと殺すレベルの矢を同時に無数に放つことが出来る。
バタバタと倒れる『破壊の女神』の使徒たち。
「「友よ。存分にやれ! 参列者は私たち親子が伯爵家の名誉にかけて護るっ! 」」
「「「「「一番オマエラが怖いわっ!!?? 」」」」」同感だ。
魔力だけは膨大にあるが経験の薄い魔導士ほどヤバイ味方はいない。
親子の「光の矢」に耐えた『暗殺の雲』に光の剣をもって切りかかるファルコ。
一瞬で回り込み、ファルコのか細い首を狙う『暗殺の雲』。だがその必殺の絞首紐は空を切る。
普通は下だ。だが。「上なのっ?!」
輝く剣を持って神殿の壁を、簡素なフラスコ画を。簡素なシャンデリアを蹴り。
待ち構える『暗殺の雲』めがけ、盾に仕込まれた三連ダガー発射装置を放つ。
ついでに銀でできたターツも複数本。
ひるんだわけではないが、着地地点を見誤った(目あるのか?)『暗殺の雲』の背を光の剣が貫いた。
ほとばしる光が『暗殺の雲』を貫き、魔法の力を帯びたファルコのブーツがそれを蹴り飛ばす。
『暗殺の雲』に背を向け、大きく光の剣を振り回し、
次の『暗殺の雲』を睨みつけるファルコ。
そのちいさな背の後ろで『暗殺の雲』が小さく着火。爆発。
被害は突如飛来した水球が閉じ込めた。
あちらでは『破壊の女神』の使途である男にクロスボウを放つロー・アースが。
「ふははっ? 」「くっ??! 」飛来する魔法や矢になすすべがないロー・アース。
「ロー!! 」「くるなっ? 巻き込まれるっ! 」
ロー・アースも高司祭さまもモニカも参列者を護るためにほとんどの魔法を使っている。
このままではヤバイ。
「慈愛の女神よ。邪悪を切り裂く光をっ?!? 」
邪なものを退ける聖なる光の祈祷。今まで成功したことはない。
が。俺の祈りと共に凄まじい光が圧力を持って周囲を包んだ。
……女神さまっ?! ありがとうっ?!!
「!! 」『暗殺の雲』の何体かはこれで消滅した。空中の男は一時失明してうめく。
「貴様らっ?! よくもぅっ??! ただの新郎新婦や参列者ではないなっ?! 」
……勿論だ。
「貴様らはっ?? 貴様らはっ??! 何者だっ?? 」
「「「……覚えておけ」」」俺たちは一斉に叫ぶ。
「「俺たちはっ!!! 」」」
「「「『夢を追う者達』だっ!! 」」」
「我が神の代行者がなぜ邪魔をする??! 」
「「「余計なことをいうなっ??!!! 」」」三人で一斉に叫んだ。