9 来た! メイン花嫁泥棒来たッ! これで勝つる!
「やばい」「やばい」「犯人早く出ろ」「ハヤクキテー! ハヤクキテー! 」
滞りなく進行する結婚の儀式。嫉妬というか怨嗟の声とガチ祝福の声。
泣き出す女共……って、ロー・アースもてすぎ??!! 幼女から中年老婆まで幅広すぎ?!
「どうなってるんだ? あの女共??! 」
「……異性にとって魅力的に見えるようになってしまう代償に。
誰にも性欲を抱かなくなるってヤバイ呪いがあってな」
まさか、そんな祈祷を自分から受けたか闇司祭に食らったとか。
「死に際に『アレ』も余計なものをくれたもんさ」「……」
それで、逆に女を避けていたのか。納得だ。
でも、俺、なんともないんだけどなぁ……どういうこと?
「少なくともソフィアナには通用しなかったな」「だれ? そいつ? 」
「……お前の『友人』だろ? 」「まさか、高司祭さま? あの人名前あったんだ? 」
「……当たり前だろ」そ、そういえば知らなかった。
「……コホン」
遠くからなぜかひびく小さな咳払いに背を震わせるおれ達。勿論ジェシカのものだ。
「では。こちらへ」
……!!!
花道を歩く俺たちに一斉に歓声と花びらが惜しげなく振りまかれる。
祝福の声。激励の声。あふれる拍手。
足元がふらふらしそうだ。
なんども転んだりスカートを踏みそうになるが、
腕を組むロー・アースが皆に気づかれないよう未然に防いだ。
一度止まる。
司祭に導かれ壇上を上がる俺。ヴェールをファルコが握っている。
花嫁より目立たない程度の綺麗な服を身にまとった高司祭さまが祭壇の前に立っている。
大きな花束をもった黒髪の美少女をつれて、
ロー・アースがゆっくり壇上に登り、祭壇に跪く。
「表をあげなさい。ロー・アース卿」高司祭さまの声。
「……ドラゴン・アースの子、ロー・アースよ。汝この娘、ティアを娶り……」
……やばいやばいやばいやばいっ?! 本当に結婚させられるっ??!
高司祭さま! 助けてっ??!
そのとき。
「そこまでだっ?! 」
参列者に混じっていた暴漢が立ち上がり、俺に襲い掛かろうとする。
来たっ!! メイン花嫁泥棒来たっ!! コレで勝つる!!!
……あっという間にジェシカと神官一同に取り押さえられ、外につまみ出されました。
役立たずめっ??! 役立たずめっ??!!!
「(ぼそ)あの役立たずども」「……(無言で頷きかける高司祭さま)」
思わず小声でぼやく俺と、隣に立つ複雑な心境の高司祭さま。
今頃花嫁泥棒一味は隅っこのほうで慈愛神殿関係者や女冒険者やらその他大勢の皆様に八つ当たり……。
……もとい退治されているのだろう。
「……ええと。お騒がせしました。儀式を続けます」
現在不在のジェシカにかわって儀式の進行を行う司祭。
ジェシカとちがってかなり危なっかしい。別の意味で不安だ。
「……ちいやっ??! 逃げてっ??! 」……??!
俺を引っつかんで飛ぶ高司祭さま。砕け散る祭壇。
間髪いれずしゃがんでいたロー・アースの方向にあらゆる方向から複数の矢が飛ぶ。……あ。
「ローーーーーーーー!!!!!!!!! 」
その矢は一斉に砕け散る。小さな手に握られた葉っぱのような形の短剣と漆黒の盾。
矢を砕いた『影』はクルクルとまわって大きく手足を広げて舞い立つ。
「……ぼく。参上」
ファルコ??!!