7 新郎新婦の御入場です。(超のつく美男美女カップルです)
この依頼は本来、結婚式前の冒険者カップルに受けてもらい、
何事もなければそのまま結婚(3000銀貨は無しになるが、最高の結婚を提供)。
有事の際は神殿と協力して賊を討つ(賊を討てば銀貨3000枚)。
……そういう依頼だったらしく、慈愛神殿一同の志気は極めて高かった。
たまに高司祭さまに短剣や小剣。
格闘を師事してもらいに来るロー・アースは神殿内では意外と好評で。
彼の祝福をするという意味でも志気が高い。……だけではなかった。
「あの『ティア』ってコ、いつの間にロー・アース様をっ?! 」「誰よあのコ??! 」
「冒険者らしいですけど。聞いたことありませんね! 」
「チーアッ! よくも黙っていたわね! もし姿を現したらただじゃ済まないわよ! 」
「くっ。くやしいぃぃっ!! でも、納得……」
「あ~ん! せっかく私にも春が来たと思ったのにっ! 」
「かくなるうえはロー・アース様の手を汚すまでもありません。我らで」
「ええ。賊には尊い犠牲になっていただきましょう」「そ、それは何か違います」
「全てのうらみつらみを賊に」
「女神さま。お許しください。……『少々』気合が入ってしまいますね」
「私も微力ですが……。賊には私の二、三発を耐える程度の体力を残しておいてください」
「では私が蹴りを」
「私は手刀を」「私は頬をぶってさしあげます」
……『チーア』は目の前にいます! 目の前にいます!
しかも小声で話していても俺の耳には丸聴こえっ?!?
「慈愛深い女性たち」全員、怒りを全て賊に八つ当たりする気満々!!
こ、怖いッ! 女の軍団怖いっ!!
「なるべく、内密にしようと思ったのだが」
うん。俺だって親父にも話していない。
でも、親族一同のところの一番いい席にうちの莫迦親父が座っていて、手を振っている。
止めろ! 止めろ! 莫迦親父!!
他にもエイドさんやアーリィさん。ロー・アース側には伯爵家のワイズマン親子たち。
ロー・アースの付き添い役は綺麗な黒髪をした幼い少女。……あの美少女がまさか……まさかね。
「ロー! リア充殺す! 」「死ねッ! 死ねッ! 」
何処から聞いたか友人席には今まで知り合った人々が。
「誰よ! あのコッ! チーアさんは何処っ?! 見つけたらとっちめる! 」
……しばらく姿を隠さねば。
親父が滂沱の涙を流しつつ、ロー・アースに抱きついた。うわ。引くわ。
「今日はよろしく! ロー・アース君!! 」「……は、はい」ああ。引いてる。無理はない。
親父は涙を流しながら無理にセキをして気取ってみせた。
「ところで、いいことを教えよう! ロー・アース君! 」「は、はい」
「娘の性感帯はヒザの内側だ。寝ている隙にちょっとつついて調べたからな」「「ッッ!!! 」」
一斉に噴く俺とロー・アース。
「この莫迦親父ッッ!!!! 娘になにセクハラしてるんだぁああああっっ!! 」
思わず花嫁衣裳のまま親父を思いっきりぶん殴ってしまった。
「安心しろ。親として保障する。唇と処女は無事だ」「何言ってやがるっ??!!! 」
「あまりの可愛さについついホッペにチューしたところで、親として問題行動ではないっ! 」
堂々と胸を張る2mの美丈夫に「あるわっ!死ねっ??!」と思いっきり殴りつける。
ちなみに、殴った俺の手のほうが痛い。なんて頑丈さだ。岩かよ。
「あれは……」「う……ん。可憐な見た目と……行動が……違 い す ぎ」
「そうか。ロー・アースはチーアが女になったみたいなのがタイプだったのか」
違う。とロー・アースは小声で突っ込んだのを確実に俺は聴いた。ムカつく。
「あれは、 確 実 に 尻 に 敷 か れ る 」
「あれは、もう恐喝かなにかで結ばれたのね」「ロー・アース様可愛そう」
「あれか、ローはそう簡単には女になびかないし」「……一服盛って一世一代の演技だな」
「あの親父ならロー・アースにも勝てそうだし間違いなさそうだ」「それだっ! 」
ちょっ??! 違う! 違うっ??!
「おっ? 親父の莫迦っ?! なんでここに??! 」無理やり声を潜めて親父に問う。
「ん? 」と親父はとんでもないことを言い出す。
「ああ。エイドと俺、20年来の悪友だし」……。
「いつぞやの娼館つぶしの請求書はアイツに払わせたし」「余所の夫婦仲を砕くなっ?! 」
娼館の娼婦を禿の少女以外、それこそやり手ババァ含めて全員足腰立たなくさせて出入り禁止の件かっ?!!
それでアーリィさんの機嫌が悪かったのかっ??!!
「娘の可愛い花嫁衣裳を見たかったからな。ちょっと各神殿に話つけて、依頼を出してもらった」
それで普段裏を取るエイドさんたちが、偽装結婚ではなくガチ婚だと知らなかったのかっ??!
「全部!全部テメェの所為かっ??! 死ねッ! 死ねッ!! 」
「あ~。その。落ち着け」ロー・アースがコホンとセキをうつ。
「ガウルさん。マジ何考えてるんですか? 」ん? ローは親父知ってるのか。
「いいんでね? ほっといてもお前らくっつくだろ」鼻くそをほじりながら答える親父。どういう発想だ。
一般認識で言えばおれ達『男』同士なんだぞ。
……特に、ロー・アースにだけはっ?!
ばれないようにしている(ファルコにはばれているが)。
「娘をよろしく。おっと。『息子』だったっけ? 」
まぁいいやとガハハと笑うクソ親父。これは。これは。これは。
「「マジ。やばい」」
俺とロー・アースは思わずハモってしまった。