4 結婚は惚れるより慣れろ
突如大声で叫びだした「花嫁衣裳の美少女」と「子供を背負う花婿衣装の美青年」に注目が集まる。しまった。
俺たちは早足でその場を逃げる。
「……今すぐにでもカレンさんに頼め」
カレンはうっさいが話を聞く耳は持っている。
「無理。ミリアムの奴恋人と出来婚」
「……正義神殿なら凄い不祥事になるな」
恋愛結婚推奨してりゃ、どうしてもねぇ……。婚前にヤリたがる男は昔から多い。
それに、「貞淑、慈愛深い美女ぞろい」と評判の神殿だけに、
悪い虫はなんとかして取り付こうと必死だ。
住み込みとはいえ、お勤めで外によく出る下級神官、
地位を一時返上して冒険者になっている者は比較的狙いやすい。
ミリアムは田舎騎士の末娘。地味な娘で恋愛事には物凄く疎かった。
まじめにお勤めも果たしていたし、狙いやすかったんだろう。
ミリアムの恋人はジェシカに「説教」された挙句、
ついでに神官長と司祭から
「一生続く素晴らしい結婚の祝福」を頂いた。本当に、本当に哀れだ。
(「ミリアム以外とヤろうとすると局部に激痛が走る祈祷」と
「不正を企んだり、稼ぎをミリアムに渡さないと変な一発ギャグをかます祈祷」らしい)
強固な意志を示して「正しい結婚は婚前交渉禁止! 」
……なんていう奴はお偉方が殆ど。
アンジェとレティシアは変な本を大量に隠し、アヤシイ笑みを浮かべているし。
ミズホとミナヅキ姉妹は双子なのを生かして無茶やってるし。
俺? 住み込み申請が終わる前に「冒険者」になった不良で通ってるよ。当然。
……。
……。
「なんで『高司祭さま立会い』になってるんだろ? 」
「そりゃ各神殿の長たちの合同依頼だからなぁ」
普通、神殿トップ立会いの結婚式は王族や高位貴族のものだ。
「……偽装結婚だってばれたら不祥事? 」「当然」
理不尽だ。俺たちは事態の深刻さを改めて確認した。
高司祭さまだが。実は強い。メッチャ強い。
細身、長身、出るところは出ている清楚な美女の見た目だが4キロの鉛玉を20m先に投げ飛ばし、
走れば俺(100m10秒六です。作者註訳)をとっ捕まえ、素手で聖騎士を鎧ごと吹き飛ばす。
司祭のモニカは比較的『普通』の娘だ。だが回復祈祷の腕は高司祭さまに次ぐ。
剣をとっても弱いどころかそこそこの腕の傭兵二人と互角に打ち合う。
(それでもうちの神殿の中では『弱い』ほうなのだ)
持祭として儀式進行(闖入者の排除も)を任されるジェシカ。とにかく手が早い。
神殿で一番の格闘術の使い手を争う筈のアンジェを簡単に捕まえた挙句、隅に引きずり込んでいく。
他の司祭なら「取り押さえ」で実力を発揮するアンジェに返り討ちにされることがあるが。
あっというまにスカートを剥いて尻を百叩きしているのを考えるに。
……その強さ。底が見えん。高司祭さまほどではないと思うがおよそ普通の人間ではない。
他の神官や下級神官も多少の癒しの力をもっていたり、護身程度の格闘術に秀でている。
軍隊でも持ってこない限りこの布陣を崩すことなど。
「……これって。ピンチ? 」「言うまでもなくピンチだ」
アキのやつ。なんて依頼書持ってきやがったんだっ??!