3 侍祭・ジェシカ再び
「……妹さんよばねぇの? 」興味があるんだが。
「たぶん、殺される」……そんなに怖いのか。お前の妹。
おれたち二人は結婚の儀式の簡単な打ち合わせをしている。説明するのは侍祭のジェシカ。
一応、おれたちの結婚は花嫁泥棒を捕まえるための偽装結婚だから適当でいいといったら、
「女神さまお許しください」という彼女の言葉と共にゲンコツが飛んできた。
ジェシカは俺からみてもマジで手が早い。本当に慈愛の女神の使徒なのか?
高司祭さまをぶん殴ったりするし、真面目に見えてかなり破天荒な奴だ。
同じ煩型でもカレンのほうが幾分マシといえる。あっちは小言が長いだけだし。
「説教なんて苦手です」貴様。本当に侍祭か??!!!
いや、説明は身振り手振り交えていてすっごく解りやすかったし、彼女の実務能力は疑いようがないが。
「そもそも、私は行儀見習い名目でこの神殿に放り込まれましたから」……ほう。
もともとは大騎士の家に生まれたが、
兄や弟もドン引きする戦闘力と御転婆っぷりで父親に慈愛神殿に放り込まれて今の地位らしい。
「でも、礼儀作法に一番五月蝿いのもジェシカじゃん」
この神殿、元は孤児だったり娼婦だったり乞食だったり冒険者だったりで、
御世辞にも家柄がいいとは言えない連中が少なからずいる。
そういう連中を一人前のレディにする仕事もやっている。マメな性格でないと出来ない。
そのゲンコツを交えた指導は歴戦の女冒険者や元犯罪者たちすら震え上がるほどだ。
「そういうのは子供の頃からみっちり叩き込まれましたからね」
そのまま結婚コースに乗らなかったのは初夜前に新郎を殴り倒してしまい、
そのまま出戻りして父親を激怒させたかららしい。
へ?! ……つまり。
「……35歳で処女??? 」「……」
コブが4つ出来た。殴りすぎだ。
「(ぼそ)お前は一言多すぎる」
ロー・アース。お前に言われたくない。
ちなみに、ファルコは足元ですやすや舟をこいでいる。
いちおう、彼は俺のヴェールを手に持って進む役をやってくれるらしい。
「武器も防具も使えないのが辛いな」
戦神神殿や正義神殿の結婚式でもない限り武具の持ち込みは許されない。
「賊など素手で充分です」……ジェシカはそうだろうけど、俺は無理だ。
「しかし、許せん話だよな」俺の言葉にジェシカが首を縦に振る。
「賊の顔が餓鬼族に見えるほど殴り倒したくなりますね」
……何度も思うが本当に慈愛の女神の使途か。
「ジェシカさん。当日は宜しくお願いします」
美青年(?)に頭を下げられて頬を染めるジェシカ。
「お任せを」
力強く首を振ってくれた。本当に頼りになる。
「いい人だなぁ」「小言のカレン。鉄拳ジェシカって言われてる」
打ち合わせが終わって『五竜亭』に報告に向かう俺たち。ロー・アースの背にはすやすや眠るファルコ。
「……慈愛神殿の人間は、お前の話通りだと実に個性的だな」なにを言う。トップがアレだ。
「春先だから、結婚式は増えるんだが」本来はそうだ。出来婚とか出来婚とか。
「商業神殿で2件、知識神殿で3件。戦神神殿や正義神殿ですら1件の被害。総計7件か」
七人とも花嫁は速やかに奪回されて、怪我や貞操の被害なし。良心的な花嫁泥棒だ。
「慈愛神殿にも賊が出る可能性は否定できないな」
ああ。それは。
「ジェシカに勝てる賊がいない」「はぁ? 」
「いやマジマジ!! 」「……」
あの手の早さ見なかったのかっ?! 剣と棒術だけなら下手したら高司祭さまより強いんだぞっ?!
賊なんてあっという間に物陰に引きずり込まれて簀巻きだぞ簀巻き!!
「……つまり、『滞りなく進行』してしまう可能性をお前は考えたことがないのか? 」
……。まさか。
うん。まさか。
「なんでテメェと結婚しなければならないんだっ??!! 」