2 春のブリザード
「……結婚?? あら。おめでとう」
……なんか気温が20度くらい下がった気がする。
「ロー様。なんのご冗談ですか」
ニコニコ笑いながら静かにキレるうちの神殿の高司祭さま。御歳21歳独身。
「……昨今頻発する花嫁泥棒を退治するための措置です。詳しくはこちらの書類を」
そうとしか言いようが無い。
というか、スカートを穿いている俺をみて俺とわかった奴は彼女しかいない。
同僚ですら素通り(また司祭におっかけられていたのもあるが)だった。
個人的には神官仲間の最年長のカレンに頼みたいのだが、彼女が多忙となると。
ケース1 侍祭ジェシカさん。
「結婚をなんだと思っているのですか!! 」
ケース2 神官マリアさん。
「……あら。そのスカート。御似合いですよ。チーアさん(ニヤニヤ)」
ケース3 司祭モニカさん。
「……!! ああっ!! ごめんなさいっ!
今ちょっと立て込んでいましてッ! 待ちなさい! アンジェ! 」
「私だって忙しいのですが? 」
ニコニコ微笑む高司祭さま。怖いっ! 怖いよっ!
「確かに私たち各神殿の長が合同で出した依頼ですが……なぜ御二人が? 」
「「陰謀です」」「取り下げてきなさい」にべもない。
4月前に募集がかかった依頼は、担当冒険者極秘のまま6月の式直前まで周到な準備がされる。
取り下げろといわれて取り下げれるわけがないのは高司祭さま自身が存じていることなのだが。
「……そうだな。偽装結婚なんて慈愛の女神の使途にとって冒涜みたいなものだし、この依頼書は無しにしてもらおう」
違約金は発生するが。それがいい。それがいい! 針の筵にも程があるっ!!
「……正義神殿や戦神神殿や知識神殿や商業神殿あたりに」
「……」
高司祭さまの穏やかな瞳が一気に釣りあがった。
火に油注ぐなっ!!! ロー・アース!!!!
「あのね。あのね。高司祭さまにね。まもってほしいの~」
高司祭さまの私室兼執務室で遊んでいたファルコがペコリと頭を下げた。
友達二人が危険な目に会わないように。慈愛の女神とその使徒は正しい結婚の守護者である。
「……解りました。こういうのは今後なしにしてくださいね? 」「うん! 」
こうして、俺とロー・アースは高司祭さま立会いで「結婚」するハメになった。
あとでガン泣きする高司祭さまをなだめるのに苦労した。苦労したっ!!!