第九夢。ウソつきは結婚の始まり?! プロローグ
長い冬が終わりめでたい春がきた。
春祭りをのどかに楽しむ街に花嫁泥棒の影が迫る。
「なんでテメェと結婚しなければならないんだっ?!」
チーアがまたもキレた。
あ? あの話の理由が聴きたい? ……やなこった。
……お前もしつこいな。嫌だって言ったぞ?
……。
……。
わかったわかった。コトの始まりは4月の始まり頃さ。
「ちいや。あのね。あのね」
始まりは相棒のファルコ……ファルコ・ミスリルの野郎の余計な話だった。
俺。チーア。一応冒険者だ。
……ああ。いつも変な依頼ばかり受けてるっていったらはったおす。
「凄いよ。次の仕事は竜退治」「……」
「死ぬわっ!!!ボケッ!!! 」
俺は奴の口に両手をねじ込んでほっぺをぐいぐい左右に開く。
「あ”い”~~~~~」涙目でじたばたするファルコ。
「やめなさい。ファルちゃんがかわいそうでしょ」
閑散とした店内に良く通る声。この店のウェイトレスのアキ・スカラーだ。
「ああん? 俺は竜退治なんて死亡確定な仕事はうけねぇぞっ! 」
俺は彼女に叫ぶ。「……くすくす」「ぷぷぷ」?????
「そうか。チーアは知らないのね」
女将のアーリィさんは金髪碧眼の美女だが既婚者である。残念である。
「……この国はな。春のお祭りの間と夏前は、
『罪の無い冗談の範囲の嘘』なら笑って許す習慣があるのさ」
一見、人語を喋る食人鬼か熊だが。この女将を妻にしたという信じられない快挙を成した男がこの熊。
もといエイドさんである。代々続く名店の店主の一族のものである。
「……嘘つきは盗賊の始まりだっ!!! 」
俺はファルコの口をさらに大きく開いた。
「うええええええん!!!!!! 」「ちょ! 」「やめなさい」「やめろ。今は春祭りだ」
他の冒険者たちは花が咲いたからといってそっちにいってしまった。
いくら厳しい冬を越したからといっても、この国の皆は浮かれすぎだ。
「まぁ豊かな国だしなぁ」
泣き出したファルコの面倒を見ているのはおれたちのリーダー?
……ってことになっているロー・アース。
「つまり、あれか。『ロー・アース。好きだ。結婚してくれ』とか? 」
「そうそう。いい感じ! 」「そうだな」「あら素敵」「お~。おめでとうなの~! 」
ムスっとしているロー・アース。そして自分の放った冗談にウケる俺。
……。
……。
「花嫁泥棒退治。報酬銀貨3000枚 依頼者:各神殿の長(共同)」
依頼書を片手にニコニコ笑うアキ。
後ろで笑うエイドさん。アーリィさん。三人の笑みが悪魔に見えた。