エピローグ。A面『慈愛神殿にて』
「もうっ! もうっ! 辞めさせてくださいっ!!! 」
少女のように泣いて謝るカレンに高司祭さまはため息をついた。
普通の神官なら「行儀見習いが終わったから辞めたい」という話は珍しくないが。
「落ち着きなさい。カレン」「私のせいでっ! 私のせいでっあんな騒ぎにっ! 」
「いや、俺のせいだし」
たんこぶを押さえながらチーアがカレンをかばう。
「まさかあんな騒ぎになるとは思わん。つかまじない程度の効果だと思ったし」
……はぁあああああ。……高司祭さまはため息をついた。
「カレンだいすきですやめないで
孤児院 R君(仮名)
Mちゃん(仮名)
Nちゃん(仮名)他多数」
「カレンが首になるなら私が 司祭 Mさん(仮名)」
「私が一番悪いのです 持祭 Jさん(仮名)」
「カレンさんは悪くない 下級神官 Mさん&Rさん(仮名)
Aさん(仮名)他多数」
「寛大な処置をお願いします。 神官一同」
「……他にもあげますが、貴女を悪く言う人は一人もいませんでした」
普段うっさいけど。の一文は意図的に削除したが。
「……」大声をあげて泣くカレン。
「こんな、こんな口煩いいき遅れに……」
『自覚はあったんだ』
その一言を言わない程度にはチーアはもちろん高司祭さまにも分別があった。
「えっと、カレン。何度も昇格の話が出ていたと思いますが」
「……はい。神官の身でなくば子供たちの世話や日々のお勤めに支障が」
「貴女は確かに有能ですが、持祭や司祭にもそれなりの仕事があります」「理解しております」
「よって、司祭を三ヶ月務めなさい」「……年齢制限を過ぎていますが」
一応、晴れの舞台である結婚式などを取り仕切る司祭は若い娘の仕事になっている。
「問題ありません。地方の村赴任のものは50過ぎなどそれほど珍しくありませんし」
「その後、どうしてもというなら一神官として活動してもかまいません」
微力を尽くしますというカレンに高司祭さまはにっこり微笑んだ。
「チーア。貴女は正義神殿と合同で風呂を作る計画の連絡役になっていただきます」
「そ、それってパシリっすかっ??! 」
「貴女が一番駆け足が得意のようです。馬術も優れていますし」
チーアの駆け足は現代で言えば100m10秒6。マラソン二時間三十分。
年齢14歳。日本人なら余裕で日本代表や候補になれる。
「これが設計図ですが市民皆がタダ同然で使える大規模な施設になります」
「混浴ですか? 」不思議そうに覗き込む二人の神官。
「実は二枚あるので、こちらは先方に渡さないように」「??? 」
「混浴の設計図はあるっ! ありますが……別に混浴にすると言った覚えは無いっ! ……つまりっ!
こちらがその気になれば運営費を永続的に出す契約にサインをした瞬間にっ!
男女別枠の風呂を作る設計図に差し替えることも可能っ! 可能なのだっ! 」
「詐欺じゃないですか」
チーアとカレンが抗議する。
「ちゃんと『"想像図"と実際の設計図は異なります』と石工他各種ギルドには通達済みです」
「……」「……」あきれ返る神官長と下級神官二名。
「『私たち』と毎日混浴でお風呂に入れると勘違いした殿方たちは、
契約書をよくも見ず、喜んでサインしてくださいましたよ? 」
ニコニコと微笑む高司祭さま。
「お金も正義神殿から頂いた賠償金で支払済みで返金不可です」
「……どれだけ悪党なんですか」「ひっでぇ……」ドン引きするカレンとチーア。
「維持費永続支払い契約してしまった貴族どもやギルドが反撃に出る可能性は?? 」
「彼らの弱みは握っていますし♪
そのかわり彼らの使用人やギルドメンバーたちはほぼタダで入れます。
そちら側の支持はちゃんと取り付けました」
「し、私兵や軍隊がきたらどうするんですか? 」「私が一人で迎え撃ちます」「「……」」
大きくため息をつく二人に楽しそうに今後の計画を語る高司祭さま。
「掃除とか維持管理、実際の運営は私たちですからね!
出資者の皆さんに維持費を払わせるといろいろ口出しされますから黒字経営を目指します!
あ、お風呂の中で露店も出したいなっ! マッサージとかあるといいかも?
温浴は施療の役に立ちますから出張施療所も開設しましょう!
魔導帝国時代にあった遺跡から調べた限りは運動とかもしてたみたい!
ねっ! ねっ! いいでしょ? ふたりとも! 」
「どう思います? チーア? 」「俺にふらないでください」
また仕事ふやすのかと二人の神官はため息をついた。