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吹き飛んだ広間の扉の向こうに姿を現したのは、北の山に住む風のドラゴンでした。
カナリア姫は歌うのをやめました。
東の国の王子と西の国の王子と南の国の王子はドラゴンの出現に驚いて唖然しています。
轟々という風の音に紛れてドラゴンの声がします。
――歌え
ドラゴンがカナリア姫を見据えています。
カナリア姫はドラゴンを見つめ返すと、やはり静かに首を横に振るのでした。
そこでドラゴンは首を傾げる素振りをした後、鋭い爪を器用に動かし、庭に咲いている赤い薔薇を一輪つまんでみました。
すると薔薇の花びらはドラゴンの鼻息で飛び散り、鋭い爪の間で花びらのなくなった茎がへし折れていました。
その時、我に返った東の国の王子と西の国の王子と南の国の王子はカナリア姫を守るために剣を抜きました。
ドラゴンはふっと息を吹きかけ、王子達を吹き飛ばし、鋭い爪でカナリア姫を掴みました。
ゴウゴウと風の音に紛れてドラゴンの声がします。
――ワシの住処で歌え
そしてカナリア姫を掴んだまま、突風と共に北山に舞い戻っていきました。
サイト“へのへののもへじ/紳士と熟女のための挿絵のある童話”より、文章のみ(少々修正を加え)お引越ししました♪