日がな一日
その生き物は日がな一日、墓に向かう。
墓の前で祈るのだ。
あるいは過去を回想するのだ。
気の向くままに。
数分。
一時間。
それこそ時には一日がかりで。
「よくないことはわかっています」
その生き物は笑う。
まるで言い訳をするように。
「あいてによって、とどまるじかんをかえるなど」
墓の数を数えたことはない。
けれど、地平線の向こうにまで続いている。
何故、それを知っているのかと言えば私がそちらの方からやってきたからだ。
長い旅の途中だった。
道の合間に不意に墓が現れた。
一つ、二つ、三つ……。
途中から数を数えるのをやめた。
ただ、多くの命が消えたのだということだけが分かった。
戦だろうか。
病だろうか。
あてのない旅。
考えることを慰みに歩き続けた先にこの生き物に出会った。
――もう一年も前のことだ。
「いつになったら、ここからさるのですか」
問われて答えた。
「気が向いたら。どうせ、あてもない旅をしていたから」
生き物は表情を変える。
人であったなら歪んだ顔を浮かべる。
「これいじょう。はかをふやしたくない」
拒絶の言葉。
けれど、拒絶の意思はなく。
私はその生き物の傍を離れることをやめた。
旅の終着点をこことした。
日がな一日、この生き物と共に墓の前に立つ。
その生き物が立つ時間だけ墓の前に立つ。
一つの墓が終われば次の墓へ。
それが終わればまた次へ。
全ての墓に祈りを終えるのに何年かかるのだろうか。
そんな疑問はいつの間にか消えた。
その生き物は歳を取らない。
対して私の肌は年々皺を増やし、髪の毛も白くなり、腰も曲がっていく。
いつからだろう。
あるいはいつのことだったろう。
この生き物が実に哀れで。
放置するのが実に忍びなく。
それゆえに離れがたいと思い。
――結果として。
この生き物を傷つける。
数えきれない墓の中に眠る命を思う。
彼らを想いながら生きる、この生き物を想う。
そして、その中に入ってしまう自分を微かに恨む。
「あぁ。また、はかがふえる」
私が聞く、生涯最期の言葉を反芻しながら。
日がな一日が続いていく、この生き物に憐憫の想いを抱く。
あぁ。
永久に生きるとは何とも恐ろしいことであろうか、と思いながら。




