第五話「呪いの告白」
彼女は今夜も現れた。
艶やかな黒髪が闇に揺れ、白い手が俺を撫でる。
その瞳は甘く赤く燃えて、見るだけで心臓が痺れるほどに高鳴った。
唇を重ね、体を寄せ合った後、彼女はふと寂しそうに笑った。
「ごめんなさい……本当はね、あなたを喰らうはずだったの」
静かな声。
その吐息には、血のような鉄の匂いが混じっていた。
「私は“呪い”なの。
生きてる人を愛したら、その人の命を削り取る。
それが、この身に刻まれた契約だから」
彼女は胸に顔を埋め、震える声で続けた。
「あなたに出会って……初めて怖くなったの。
本当は欲しくなんかないのに、触れれば触れるほど、あなたを奪ってしまう」
俺は彼女の肩を抱きしめた。
冷たいはずの肌が、涙に濡れて熱を帯びている。
「だったら……俺が解くよ」
自分でも驚くほど強い声が出た。
命を削られていると知りながら、不思議と恐怖はなかった。
むしろ――彼女を救いたいと心の底から願っていた。
「どんな呪いだろうと、方法がなくても……
必ず、俺が解いてみせる」
彼女は顔を上げ、赤い瞳を潤ませて俺を見つめる。
その表情は、今まででいちばん人間らしかった。
「……そんなこと言った人、あなたが初めて」
その瞬間、彼女の瞳の赤が柔らかく揺らぎ、涙がひとしずく零れ落ちた。
呪いに囚われた異界の花嫁は、初めて「ひとりの少女」として俺に微笑んだ。




