聖域への道標
「神の呪いを解く術は、ただ一つ」
堕天した使者は、黒く染まった翼を広げながら言った。
「――聖域に踏み入り、神の座を正面から揺るがすことだ」
月明かりの下、彼の声はどこか悲哀を帯びていた。
かつては神の忠実な僕であった彼が、今は俺たちを導こうとしている。
「聖域……そこに行けば、本当に呪いは解けるの?」
彼女の声は震えていた。
長きにわたり呪われ、孤独を抱いてきた彼女にとって、その答えは希望でもあり、恐怖でもあった。
「だが道は険しい」
堕天した使者は、夜空を仰ぐ。
「聖域を守護する者たちは、私の堕天を知れば容赦なく襲いかかるだろう。
お前たちが“愛”を掲げるなら、その旅は必ず試練となる」
俺は彼女の手を握った。
艶やかな微笑みの奥に潜む不安を、少しでも和らげるように。
「構わない。俺たちは行く。
この呪いを解くために――そして、彼女を救うために」
その言葉に、彼女は小さく目を見開いた。
やがて涙を滲ませながら、囁く。
「……ありがとう。あなたとなら、きっと」
堕天した使者は静かに頷いた。
「ならば進め。聖域の扉が開かれるのは、次の満月の夜――」
旅立ちの時が、迫っていた。




