表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

本編 第一話「囁き」



本編 第一話「囁き」


壁に、小さな穴があった。


ほんの指先ほどの小さな傷。

けれど、その夜、そこから確かに「声」が聞こえた。


甘い吐息。

少女とも女ともつかない艶めいた響き。

耳の奥に溶け込むようなその声は、眠れぬ俺を誘い出す。


――触れてみたい。


無意識に、俺は穴へと指を伸ばしていた。

触れた瞬間、温かく、湿った感触が絡みついてくる。

ぞくりと背筋に電流が走る。


「もっと……来て」


囁きは確かに聞こえた。

幻聴ではない。俺に語りかける声だ。


一本、二本と指を入れるごとに、声は熱を帯びてゆく。

まるで愛しい恋人がすぐ隣にいるかのように。

やがて五本の指が呑み込まれたとき――穴の奥で蠢く“何か”が、俺の手を握り返してきた。


柔らかな感触。

それは確かに、人の掌のようだった。


「やっと見つけた……わたしのひと」


甘やかな声が、耳朶を溶かすように響く。

恐怖と歓喜がないまぜになり、心臓が破れそうなほどに脈打った。


――その時、壁の奥から赤い瞳が、こちらを覗いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ