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■2■ あるOLの話


 っていうのが……運転手さんの話なんですけど……どう思います?

 なんでしょうかね?


 わたし、けっこう怖い話とか好きなんで、残業でめっちゃ疲れてたんだけど、思わず聞き入っちゃったんですよね。


 まあ、確かに最後の最後の最後までは、ほんっっとよくある話なんですよ。

 でも、最後の最後に、『バックシートに残されてたのは“羊水”でした』でしょ?


 なーんかどうも、どうにもこうにも、ウソだとは思えないんですよね。

 でも……どう思います?


 幽霊とか、信じるほうですか?

 まあわたしは信じるほうなんですけど……もし、幽霊じゃないとしたらなに?


 妊婦さんがタクシーの後部座席で破水して、そのまま飛び降りた……?

 いやいやいやいや……そんなわ「けないですよね?


 じゃ、やっぱり幽霊だったんですよね……

 で、幽霊がお決まりでタクシーの後部座席に残す水……

 あれ、妊婦さんが赤ちゃんをお腹のなかで育てるときの羊水と同じ成分らしいんですよ。


 だからなんだ、って言われるとわたしもよくわかんないんですけど……


 でもまあ、確かに『タクシーの客が消えてて、シートがぐっしょり濡れていた』ってことに関して、その運転手さんは娘さんの力も借りて、ひとつの科学的っていうか、そういう結論を導き出した、ってことですよね?


 まあ、あくまで、ほんの一例ですけど……

 ほんと、なんか妙で気持ち悪い話ですよね?


 でまあ……わたしもその話を聞いて思い出したことがあったんです。


 まあわたしその時も、忙しいときは毎日終電帰り、みたいな生活してんですけどね……

 そういうときは、もう真夜中過ぎの帰宅がずっと続くんです。


 さっきの運転手さんの時もそうですけど、まあ常識として、マンションの前までじゃなくて、マンションから歩いて5分くらいの大通りでタクシーを停めます。

 まあ、一人暮らし女でタクシー帰りが常態化してる人だったら、みんなそうしますよね?


 で、途中のコンビニに寄って……まあ、ほんとは身体に良くないんですけど、残業中はほとんど何も食べないから、サラダとかサンドイッチとか、なんかちょっと食べられるものとちょっと強めのチューハイとかを買ってマンションに帰るんですね。


 で、その運転手さんのタクシーに乗った一年ほど前だったかなあ……

 その、いつも寄ってるコンビニに、怪しい男がいたんですね。


 なんでその男が怪しいと思ったのか、最初はわかんなかったんですけど……なんでしょうね?

 わかりません?

 怪しい奴って、オーラみたいなのが出てるというか……


 なんかすぐ買い物して店を出ると、あと尾けられたらイヤなんで、雑誌コーナーで立ち読みするふりして時間をつぶしてたんですね。


 そしたらその男、やたらコンビニの店内をうろうろうろうろしてるみたいで、何度も何度も目の端に入ってくるんです。


 で、わたし雑誌を読む振りしてチラチラと男のほうを見てみたんですね。

 そこで、なんでその男が“怪しい”のかわかりました。


 もうその頃にはかなり暑くて、わたしもジャケットを脱いで手に抱えてたくらいだったんですけど……その男、なんかビニールのレインコートみたいなのを着てるんですよ。


 それも真っ黒の。で、そのレインコートがテカテカ光ってるのが不気味でした……


“え、やばやばやばやば……マジでヤバい奴じゃん……”


 さらに横目でその男のほうを見ました。

 人相まではよくわからなかったんですけど……すっごく浅黒い肌。


 で、めっちゃくちゃ汗かいてるんですよ……横顔が、ぬるぬると濡れ光ってました。

 しきりに……小さいフェイスタオルで汗を拭いてるんですね。

 暑い中、レインコート着てるのに。


“やっば……やばやばやば……マジでなに? ……真剣にやばい……”


 ほんと、なんか明らかに異常なんですよ。

 いつまでも雑誌、立ち読みするふりしてるわけにもいかないし……

 てかなんか寒気がしてきて、読んでるフリしてる雑誌の内容なんかほんと頭に入ってこないわけですよ。


“出て行け……早く出て行け……早く店から出て行け……”


 ってわたし、男に念力送りましたよ。

 かなり強めに。


 そしたらあの、

“ピポパポピポンピポパパポン♪”


 ってメロディが鳴って、ちらっと出入口のほうを見たら、男の黒いレインコートの裾がひらひらと外に出て行くのが見えました。


“良かった……マジ良かった……”


 ほんと、仕事でヤバいミスしてバレなかったときみたいに胸、撫でおろしましたね。


 で、外で男と出くわしたらイヤだから……しばらくそのまま店内を見て回って3分くらい時間潰して…… 

 まあとりあえず一安心、ってことでいつもよりちょっと高いビールと、ちょっとマシなおつまみを買って店を出ました。


 男は見当たりません。

 で、そのままわたし、マンションに帰ったんですね。


 とりあえず服脱いで、シャワー行って、おちついて……買ってきた高いビールをプシュ! とやって、ちょっと贅沢めのおつまみで晩酌ですよ。


 もう1時回りそうでしたけど。


 で、テレビつけたところで、朝干してた洗濯物のこと思い出したんですね。

 そういえば明日、大雨降るんだっけ……って朝出るときに見た天気予報のこと思い出したんです。


 で、ベランダに出たら……

 さっきの運転手さんの話じゃないけど、こっからはほんと、“よくある怖い話”なんですけど……


 向かいのマンションの下、電柱の下に、黒いてるてる坊主みたいなのが立ってたんです。


“……えっ……?”


 いや、“えっ?”じゃないですよね……


 その前を、原チャが通り抜けたんで、そのライトを受けて、てるてる坊主の表面が、テラテラッ……と光ったんですね。


 そいつの汗で濡れた顔も。


“ひっ……”


 ってなりましたよ、わたし。

 そりゃなりますよね。


 男、やっぱフェイスタオルで汗拭いてます。

 で、顔は良く見えないんですけど……ベランダにいるわたしを見上げてるんです。


“わわわわっ!”


 って洗濯物そのままに、わたし窓閉めてカーテンも閉めました。

 やばい? めっちゃやばいよね? 警察呼ぶ?


 ……って思ったんですけど……なんか、ちょっと気が引けちゃって……


 てかまあ、実際は呼んでも良かったのかもしれませんけど、まあ……その、その男がわたしを尾けてきて、で、わたし目当てでその場所に立ってる……って確証はないわけじゃないですか?


 てか、わたし自意識過剰なんじゃない? ……とかなとか考えちゃって……

 いや、そんなこと考えてる場合じゃなかったのかも知れないんですけど……


 まあ、とりあえずマンションはオートロックだし、ちゃんと部屋には鍵かけてチェーンも掛けてるし、明日も朝から仕事だし……その晩は、とりあえず何かあったらすぐツーホーできるようにスマホ握りしめて布団に入りました。

 

 でまあ……わたしも本気でのんきだなあ、って自分でも思うんですけど、そのまま朝までぐっすり寝ちゃったんですね。


 翌朝、天気予報ではどしゃ降りだったはずなんですけど、見事に予報は外れてめっちゃくちゃお天気。

 まあ、とりあえず何もなかったんだ……と思ってそのまま用意して仕事に出かけたんですね。


 で、マンションを出ると……また“ひっ”ってなりました。


 え? 昨日、ベランダから見た男がまだそこに居たんでしょ? ……って思います?

 いや、違いますよ。いなかったんです。


 でも電柱の下に……あの、黒いレインコートだけがあったんですね。

 まるでそこでそのまま脱いだみたいに。


 ほんと“ひっ”ですけど……わたし、ちょっとそれをよく見てみたくなったんです。

 わたし、ヘンですかねえ……?


 で、近づいてみると……


 くしゃくしゃに脱ぎ捨ててあるコート、びしょびしょに水で濡れてるんです。

 そのコートの周りのアスファルトにも、水がしみ出してました。


 おかしいんですよ……ゆうべから今朝まで雨なんて降らなかったはずなのに。


 周りを見回しても……どこも濡れてるとこなんてないんですよ。

 でも、くしゃくしゃになったコートの襞には、水が溜まってるんです……


 なんなんですかね?


 あの運転手さんの言ってたように……その水も、分析すると……

 妊婦さんの羊水と同じ成分だったのかなあ……

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