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第四話 暁天の女装

計画が実行されるまでの二週間、二人は着々と準備を進めていった。しかしとんでもなく大きな課題が二人の前に立ちはだかった。





「ちょっとこれは……衣があまりにも合ってない気が」



飛炎が女の格好をすることになったが、いざ衣を着てみるとなると、全く似合わないことが判明した。



肩幅の広い飛炎が女物の衣を着ると、肩のあたりが見るからに窮屈であり、また凛々しい顔立ちな為、可憐な衣が絶望的に似合わなかった。




「………..とりあえず化粧をしてみましょう。印象が変わると思いますよ」



麗華の提案通りに化粧を施してみるも、より一層悪化しただけであり、さすがの麗華や祐潘も言葉を失うほどの有様だった。




「お前、それはなんだ?道化役か?」




暁天の煽りに飛炎はやれやれ、と肩をすくめた。自分でも自覚があったが、流石に皆からこのように思われるのは悲しいものである。




「そんなこと言うなら、お前に代わってもらうぞ。どう考えてもお前の方が相応しい。それにこんな見た目のが輿に乗っているとしられたら、計画が失敗しそうだなぁ」




ちらりと暁天を見れば、彼はそっぽを向き飛炎と絶対に視線をあわせようとしない。



「確かに暁天様は美しい顔立ちの方ですからね。一度試してみてはいかがです?」



祐潘の言葉に暁天の顔が引き攣った。飛炎のいうことは突っぱねても、流石に祐潘の提案を突っぱねることはできない。



「せっかくですし!ねっ?」



なぜか楽しそうな麗華の圧に負けた暁天は、大人しく隣の部屋へ連行されていった。











それからしばらくすると、隣の部屋から歓声が聞こえ、麗華と花娘が興奮した面持ちで扉を開けた。




「すごいですよ!こんなに綺麗な人は見たことありません!!」




はしゃぐ二人に続いて部屋に入ってきた暁天に、飛炎は言葉を失った。



彼は薄っすらと化粧を施されているだけだったが、それがかえって彼の素材の良さをより強調しているようだった。

もともと白い肌が白粉をはたいたことにより、より一層白くなり、透けてしまいそうなほどだ。




目尻にほんの少しだけ引かれた紅は、彼に滲み出る艶を与える。




暁天のほっそりとした身体の線を浮かび上がらせる薄い生地の衣は、薄紅色でありなんとも艶かしい。



「いやあ……なんと表現したらいいのか」



軽口を叩こうにも意識が完全に彼に引き寄せられ、何も言葉が思い浮かばない。




「なんだ?似合ってないとでも?」



暁天の問いに飛炎は曖昧な笑みを浮かべた。似合っていると言っても、似合ってないといっても殴られそうだ。




「街を歩いたら誰もが振り返りますよ!あっ、せっかくだから簪もつけましょ!!」



花娘が軽い足取りで簪を取りに行っている間、飛炎と祐潘は困ったような笑みを交わした。





「おい、飛炎はっきりと言ってみろ。何か問題でもあるのか?」




「……..言ったらお前は殴ってくるだろう」



暁天はまるで心外だ、というような不満げな表情を見せた。そんな二人見た祐潘はくすりと笑うと、とうとう暁天に話した。



「あまりにもあなたが美しすぎるのですよ。これではかえって目立ってしまうかもしれませんねぇ」



「でも父上、暁天様の方が適役なのではありませんか?」




麗華の無邪気な言葉に飛炎は若干渋い顔をした。



(それじゃあまるで俺があまりにも出来が悪い感じじゃないか)



別に女装したいというわけではないが、少し複雑な気分である。




「お前は変装をしたことないのか?」





「多少はあるが」




「じゃあなんであんな感じになったんだ?」



純粋に疑問に思ったのだろう、真顔でそう問いかける暁天に飛炎は口をへの字にした。


「俺は女に変装したことはこれまでにないんだ。それに体つきが明らかに向いていないから、そもそもしない」




あえてむっとした感じにいえば、一瞬暁天の瞳が揺れた。



「…….怒っているのか?」




おろおろしながらこちらを覗く暁天の様子に、飛炎はすぐに気分を良くして、笑ってたみせた。



「別に怒ってはないさ。まあこんな感じなら俺よりお前がやった方がいいだろう。頼むな!」



肩を軽く叩けば、すぐに暁天の柳のような眉は顰められ、あっという間に不機嫌そうな顔になった。




「こんな格好を見られたら、私は永遠に馬鹿にされる」



「なんだ?何か嫌な経験でもあったのか?」



少し揶揄うような口調の飛炎の手の甲をつねると、暁天は重々しく口を開いた。






「…….ただでさえこの顔では威圧感が足りないのに、その上女の格好までしたら、笑い者だ」




「この世の中にお前のことを笑う奴がいるのか?」



「お前だ」



はっきりと断言され、飛炎は意図せず噴き出してしまった。



「俺か?!何でだ?」



何かやらかしたか、と必死に考えるが思い浮かばない。ちらりと暁天を見ればむっつりとした顔で見返してくる。



「ふんっ、忘れているならもういい。記憶力が悪い奴には何を言っても無駄だからな」



完全に臍を曲げてしまった暁天は部屋から出ていってしまったが、大して経たないうちに何故か部屋に戻ってきた。



「どうした?」




「…….屋敷の外を少し歩いただけで、色んな人から声をかけられる。既に五人ほどのなよなよした男に声をかけられて不愉快だ」




暁天の顔には化粧を落としたい、と書かれていたが、飛炎は何とか彼を宥めようとした。



「せっかく綺麗に化粧をしてもらったんだ、すぐに落としてしまうのは勿体無い。白粉や紅はいい値段がする。それにここまで衣も化粧もしたのなら、所作を練習してみたらどうだ?」



飛炎の言葉に麗華や祐潘も賛成し、もはや暁天は逃げ場がなくなっている。



じりじりと後ろへ下がっていく暁天を、笑顔の三人が追い詰めていく。




「往生際が悪いぞ、暁天!」



飛炎の言葉を聞いた暁天は不意に床を蹴ると、ふわりと宙を舞った。



三人の頭を飛び越えて逃げようとしたが、それより先に飛炎が動き、暁天を抱き留めてしまった。




「ほら、逃げるなよ?」




腕の中でじたばた暴れ、恨めしそうな目でこちらを見上げている暁天に笑いかけると、彼は口を窄めようやく観念したようであった。

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