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第二話 その寝相、なんとかならないか?

「あの腹の傷から悪いものが入ったのか?」



「違う」



「じゃあ何だ、今度絶対に倒せない奴と勝負をしにいくのか?」



「違う」




どちらにも首を横に振ると、暁天はそのまま無言で食事を続けた。放っておけばそのうち話すだろう、と諦める。




この男は類い稀なる頑固さの持ち主だ。無理にでも聞き出そうとすれば、余計口を割らなくなることはとうに承知していた。
















「…….それでお前はなんで私を連れてきた?」



こちらを冷たい眼差しで探る暁天に、飛炎は軽く肩をすくめてみせた。



「別に深い意図があるわけではないさ。ただお前がいなくなればつまらなくなると考えただけだ」



にこりと笑った飛炎に暁天は鼻を鳴らし、そっぽを向いた。



「誰かに依頼されたのか?正直に話した方が身のためだ。私は気が短い方だからな」




「それぐらい知っているさ」




酒を一気に飲み干しながら飛炎はちらりと暁天に目をやる。



彼は苛立ちを抑えきれないのか、つかつかとこちらに歩いてきた。そのまま剣を抜き、飛炎に突きつける。




「言わねばお前の首が飛ぶ」




「だ・か・ら!俺は別に誰の指示も受けてないって!

お前は人の話を聞け」




ぽんぽんと彼の肩を叩くと、暁天はまだ疑っているようではあったが、一応剣を下ろした。


「本当にお前はすぐに頭に血が上るな。それを抑えるように心掛けないと、いつか痛い目に遭うぞ」




「説教はもうたくさんだ」




不貞腐れた子どものような口調で暁天は話す。

そんな彼に肩をすくめた飛炎がふと窓の外を眺めると、宿の前にいくつもの影が横切るのが目に飛び込んできた。



(何だ?)



暁天に喋らないよう目で伝え、飛炎はそっと外の様子を窺う。耳をすませば影達が声を抑えながら話していることが聞こえてきた。



「おい、穆飛炎は見つかったか?」



「いや、まだだ。まさか燕暁天も姿を消すとは。二人とも実は仲間だったのではないか?」



影の一人が発した言葉に飛炎は眉を上げた。お互いの仲の悪さを考えればそういう発想にならないと思うが。



(出会ったらすぐに殺してこようとする奴が、仲間のわけないだろう)





影達がそのまま通りの向こうへ行くのを見送ると、飛炎は暁天に顔を向けた。




「俺の仲間じゃないかって疑われているぞ。どうする?誤解を解きに行くか?」




飛炎の仲間だと思われている、と聞けば烈火のごとく怒り出すかと思ったが、暁天は特に反応を示さず、卓の上の果物を齧っていた。




「このままだとお前もお尋ね人になってしまうが」




「別にいい。私の仕事は今回の件が最後のものだった。そして任務はお前から屋敷の宝を守ることだ。今回は盗まれてないのだから、もう役割は果たしただろう」




もう用心棒の仕事からは手を引くということか、と飛炎は納得する。




「追っ手が私を見つける頃には、私は死体になっているだろうし」




そう話しながらも暁天はしっかりと二個目の林檎に手を伸ばしている。



「それで話は戻るが、お前は私をどうするつもりだ」



再び問われ飛炎はため息を吐いた。そんな理由などない。ただ彼を揶揄ってみたい、という純粋な悪戯心だ。



そんなことを口に出せばまた拳が飛んでくる。なんと答えるのが無難なのだろうか、と思案していると、暁天が口を開いた。



「まあどうせお前のことだ。たいした考えもなく私を連れてきたのだろう」




図星を刺され飛炎は苦笑した。暁天は鼻を鳴らすとくるりと背中を向け、寝台に向かっていく。



「俺の前で寝るとは。俺のことを信用してくれているのか?」



にやにやしながら尋ねる飛炎に暁天は舌打ちをし、掛け布団を頭から被った。



「眠いだけだ」



布団の中からくぐもった声で暁天は答えると、それから大して時間が経たないうちに、彼は寝息を立て始めた。




「さて、俺もそろそろ寝るか」


飛炎も寝ようとした時、はたとあることに気がついた。



「あれ、この部屋には寝台が一つしかない……?」



今更と言われれば確かにそうなのだが、この瞬間まで寝台のことを意識していなかったため、気が付かないのも仕方がないことだ。




寝台は一人で寝るのには広すぎており、明らかに二人で寝ることを想定されている。



(…….やっぱり夫婦っていうことにしておかなければよかったかな)



暁天を起こさないように気をつけながら寝台に横たわり、目を瞑る。じきに飛炎も睡魔に襲われ、あっという間に夢の世界へと引きずられていった。












「いったぁっ!!」



翌朝、飛炎は顔を強打された衝撃で目が覚めた。慌てて飛び起きようとすると、自分の顔の上に何故か暁天の足が載っかっていることに気がついた。




「えっ……まさかこいつの───足?!」


どうやら暁天の寝相が悪すぎた故に、彼に顔を蹴られるような事態が発生したようだ。




(こいつはこんなにも寝相が悪かったのか?!)



寝床に入った時と上下反対の状態で寝ている暁天に、飛炎は衝撃を受けた。




再び蹴られることのないよう、慌てて寝台から出る。

じっと彼を観察していると、そのうちもぞもぞと動き出した。



「うーん」



大きく伸びをした暁天はよく眠れたのか、すっきりとした顔で起き上がってきた。




「ふわぁっ、よく眠れた。うん……何でお前は鼻血を出しているんだ?」



目をこすりながら無邪気に尋ねてくる彼に若干の殺意を覚えながらも、飛炎は顔に笑みを貼り付けた。



「お前だよ」



「えっ?」



「お前にさっき蹴られたんだよ!!」



この男の寝相がこんなにも悪いとは、噂ですら聞かなかった。暁天自身も知らなかったのだろう、怪訝そうに眉を顰めている。



「本当か?私が寝ている間に、お前が誰かと殴り合いでもしてたんじゃないのか?」

 


なおも認めようとしない彼に飛炎は大きくため息を吐いた。



「……もういい。飯を食おう」











「それでお前は今後どうするつもりだ?」



朝餉を食べながら飛炎が尋ねると、暁天は少し首を傾げた。



「師兄に会いに行く」



「俺もついて行っていいか?」



その言葉に嫌そうな顔をする暁天を、飛炎はにやにや

しながら見つめた。



「何故遠慮しない?」



「面白そうだからさ。お前の兄弟子がどんな奴か気になるからな。まあどうせお堅い人なんだろうけど」



兄弟子を出しに彼を煽れば、彼の花のような顔が一瞬で鬼に早替わりする。




「まあそう怒るなって!暇なんだからいいだろ?それにここの宿代は全て俺が払っているからな」



「ぐっ……宿代を出しに脅すなんて卑怯だ!」



自身の要求に屈した暁天を見て、飛炎は勝ち誇った笑みを浮かべた。




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