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悩み事

 とりあえず家に帰ってから綾乃のことを考えてみるとにした。


「・・・ただいまー」


「・・おお、達海、おかえり。学校はどうだった?」


出迎えたのは頭にタオルを巻いた作業着姿のおっさんつまり父さんだった。

学生に『学校どうだった』なんで聞いても帰ってくる答えは『いつも通り』の一択だろう


「いつも通りとは言わせないぞ」


おっと、そうはいかないようだ。


「なんかいいことあったろ。だろー、わかるぞー、そうだな!・・女の子か!そうだろ!きっとそうだ!」


「・・・なんでそう思うんだよ」


「ああぁ!ほらな!そんなふうに言うってことは、やっぱそうなんだな!」


「もぉ、なんなんだよ、勘弁してくれ」


「顔に書いてるぞ」


「書いてないわ!!」


「じゃぁ、書に顔いてるぞ」


「『顔』と『書』の位置を変えるな!!」


我ながらよく切り返せたと思う。子の性格だったり、感性だったり、そういうのは家庭環境、強いて言えば親の影響が少なからずあるのだろうと、こんな会話してたら嫌でも思い知らされる。

嫌じゃないけど。


他のところもこんな感じなのだろうか。

涼介・・・

涼介の親は冷静沈着、神色自若で、僕も何回か会ったことがあったが、これが涼介の親だと言われたら誰でも脳裏に『?』が浮かぶに違いない。

あいつにも悠々閑々なところはあるが、涼介の人格の根本にあるのはやっぱり妹だろう。

あいつは、謂わゆるシスコンだ。

別に否定はしないが、奴はシスコンだ。別に否定はしない。


他に・・・綾野、綾野に関しては、これこそ『恵まれた家庭』と言ったところだろう。

父親は医療関係の仕事で、それなりに稼ぐし、母親は専業主婦で、家に綾野1人だってこともほとんど無かったはずだ。

これがいい家庭だとは断言できないが、それでも家庭的に困った様子は綾野にはない。

いつも周り(僕以外)には優しくて、勉強だってできる、要するに優等生。悩み事なんてないだろう。

だから驚いた。あの綾野が僕に相談だなんて・・・・なんなら助けてくれと。


女の子に「助けて」と言われたからにはこの神田達海、綾野とは幼馴染のよしみだ、助けてやらなければ。

でも『助ける』というのは何か違う・・・

今回の件に関して、綾野は確かに「助けてと言ったら笑うか?」的なことを僕に言っていたが、僕は綾野の夢の絶対的で決定的な解決策を知っているわけではないから、『力を貸す』ことしかできない。僕は今現在、彼女に力を貸すことはできる。

ただ、この『力を貸す』というのは必ずしも解決に繋がるという訳ではない。なんなら悪手に転じる可能性だってある。

だから、綾野が僕に「助けて」を求めたなら、

僕がそれに応えるためには、

僕はその『夢』、僕も見ている不思議な夢について知らなければならない。

さぁ、どうする僕。



*******



ピンポーン!

ん?・・誰だろう?

「・・・・・はーい」

玄関に行ってドアを開ける。

そこに立っていたのは、フサフサショートの髪を携え、今時の少し丈の短い制服のスカートを履いた、じとっとした目のついた可愛らしい顔をした女の子、要するに綾野朋絵だった。


「お、・・おお」


ドアノブを握ったまま少し前傾姿勢の僕を、顎を少し上げてゲテモノでも見る目で綾野は僕を見つめている。いや、見下している。


「入れて」


「えっ?あ、うん?・・・・なんか用?」


「入れろ」


「・・・あ、はい」


勢いに流されて綾野を家の中に入れる。

にしてもなんだいきなり。

玄関のドアを閉めて僕は居間にでも案内しようとしたが、綾野は靴箱の隣で靴を履いたまま動こうとしない。

そういえば綾野が家の中に入るのは初めてだ。


「・・・ねぇ、学校でのことだけど」


「ん?ああ、「嫌な夢」のことか?」


綾野は靴を脱ごうとせず、手を後ろの方で組んだままずっと立っている。


「私あの後よく考えてみたんだけど、神田も変な夢見るっていってたでしょ」


「うん、見るよ、最近」


「だからそのこともっと詳しく聞きたくて・・・」


明日学校で訊けるようなことなのにわざわざ家まで来て訊くってことは、相当切羽詰まってるんだろうな。

ここまで、綾野が焦っている様子は今まで見たことがなかった。


「・・・とりあえず、上がらないか?」



*******



「・・・なるほどね」


綾野を居間に通した後、僕にマシンガンの如く質問攻めをしてきたため、とりあえず綾野の興奮がおさまるまで、僕の見る夢について教えてやった。


「でも、神田はそれを誰かに相談しようとか思わなかったの?」


「うん、そりゃぁだって自分しか見れない夢を誰かに相談するなんて、普通はアホくさくてしないけどな。・・・あっ、別にお前が『アホくさい』っていってるわけではないからな。怒るなよ。」


「・・・怒んないわよ、一応真面目に訊いてるんだからあんたもちゃんと答えてよね。」


ペタンと足を床につけて僕の話を訊く綾野はなんだか小動物感があった。クラスの男子に人気があるわけだ。一昔前の僕なら惚れてたかもだけど。今の僕はあいにく舞香さん一筋だ。


「それでさ、私考えたんだけど、一緒に夢霧神社行かない?」


「えっ?なんで?」


「今日ネットでいろいろ漁ってたら、ここの神社、つまり、夢霧神社は夢についての願い事だったり、そういう効果があるって書いてて」


「これしかない、と思ったと」


「うん・・・・」


「あれ、でもあそこって天気にまつわる願い事とかそういうのが叶うんじゃなかったか?」


「それはよく知られてる方、でも本当は昔ずっと、悪い夢を見たら夢霧神社に行けっていう言い伝えもあったんだって。だからさ、神田も一応悩んでるでしょう、だから一緒にどうかなって」


「やっぱりお前は優しいな」


「な、なら何よ」


綾野は顔を赤らめてこちらを睨んできた。


「じゃぁわかった、今から行こう」


「うん、じゃぁ私先に行ってるから、早くきてね」


そう言って綾野は僕の家を出て行った。


夢霧神社か・・・本当に何かあるのだろうか。

まぁでも今は、ないものねだりでも行ってみるしかないか。

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