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未知への挑戦、それは雨に晒されること

少し、 夢について考えてみよう。


 夢とは、始まり、中盤、終わりといった構造を持っているときもあれば、ただ単に、いくつかのイメージの羅列、ということもある。

夢を見る原因にはいろんな説がある。日中のストレス軽減だとか、脳の活動の副産物、潜在意識の表れ、長期記憶の手助け、などなど、

人間からしたら、夢なんて宇宙と同じくらい謎でいっぱいだ。


 でも、そういう、なんなのか分からない理不尽で不規則、無害か有害かも分からない。そんなものに立ち向かうことができる人を僕は、とてつもなく『尊敬』する。

だから僕もそういう『分からないもの』『果てしないもの』の真理を考えずにはいられない。


 だがしかし、『果てしないもの』っていうのは、時々本当に、どうしようもないぐらい果てしない時がある。

どこかの誰かが、

「『止まない雨はない』よりその先にその傘をくれよ」

って言っていたが、まったくその通りだ。

いつか止むのだとしても、今がきついんだ。考えることから逃げ出したくなるんだ。


 実際僕は『あの夢』を見てから、先の見えないことに絶望し考えるのをやめた。ずっと『傘』を持ち続けているんだ。今もずっと。


 だけど、『果てしないもの』ってのは、なにかしらの形で、身の前に現れる。そしてその時、僕はまた傘を下ろす。雨の中に晒される。

今回はそれが、綾野との会話だった。


 雨に晒される。湿った空間に自分を投げ出して、肩から腕へ、鼻から顎へ、雨水が伝う。髪が少しずつ濡れだす。それを一気に感じた僕の体は、つま先から、頭まで身震いする。それが、たまらなく気持ちよかった。

それは、見知らぬものへの挑戦の興奮と同じであった。



*******



 綾野が言ってた

『もし私が嫌な夢を見るから助けてほしいと言ったら、笑うか?』

という質問。

綾野が普段頼らない僕に、助けてほしいと言ったってことは、相当な悩み事なのだろう

と、考えながら僕は教室に戻った。

みんな部活か、帰ったかで部屋に誰もいなかった、

柏原舞香を除いては。


 目があった。ドキッとした。この前あんなに話したのに、このドキドキはなおらない。柏原さんは、僕を見るなり不思議そうに僕を見てきた。


「ねぇ、神田君、少しお話ししないかしら?」


柏原さんはそういうと、今座っている席の前の方を指差した。僕は指示に従い席に座った。内心バクバクだ。彼女と距離が近づくにつれそれは大きくなった。


「えっと、、話とは?」


本日2回目の質問。ただ相手は綾野ではなく、柏原さんだ。緊張感が全然違う。


「先ほど、社会科準備室の前を通ってね、そしたら、あなたと綾野さんが話していたから、つい立ち止まって見ていたの」


まぁ側から見たら変な光景だ。クラスの人気者と、変な噂持ちが、夕日の明かりしか無い薄暗い部屋で密会しているというのだから。不思議に思うのも無理はない、というか必然的だろう。

でも、ただそれがどうしたというのだ?


「神田君は綾野さんと仲がいいの?それともあれかしら、『カップル』なるものかしら」


柏原さんの語尾の『かしら』は、僕をおちょくっているようで、わざとのように聞こえた。

実際、柏原さんに対しては、語尾に『かしら』なんてつけるような女の子のイメージなんて更々なかった。


「えっと、いや仲がいいだけだよ」


「ほぅ、それはそれは。いつ頃から仲がいいのかしら?」


なんだ?なんでそんなこと聞いてくんだ?

やっぱり僕のことをおちょくっているようにしか思えない。


「いつからって、、、小学生の頃からの幼馴染だよ、

なんで柏原さんはそんなこと聞くんですか?」


「私、この前下の名前で呼ぶように言ったわよね?」


おっと、そうであった。


「あっそうだったね、、、、マイカさん?」


なんだか慣れない呼び方に、どのイントネーションが合っているのかよく分からなかった。


「私はね、神田君とこれから仲良くしていきたいの」


ほぅ?仲良く?

なんだかいきなりすぎてよく分からなかった。

ただでさえ学校中探しても、柏原さんと仲良くしている人なんて見たことがない。別に彼女に非があるわけではないが、関わりにくいのだろう。仕方ない、あのコミュ力お化けの涼介でさえ好んで話しかけないのだから。


「僕が、ですか?いきなりですね」


「困るの?別にいきなりでもないと思うけど、あれだけ話したのだし、仲良くなる手筈としては充分だと思うのだけれど」


「別に困らないけど、あれだけって、家の前のと、花壇の時のこと?」


「えぇ、特に花壇の方はそうね。神田君私に興味があるみたいだったし」


『興味』というのは、好きとかそういうのだろうか?

いや、流石にそれはないだろう。あれだけで、好きなことがバレていたら、なんというかもう、穴があったら入りたい。


「なんで、そう思ったんですか?」


「だって、シソの葉美味しかったかだなんて、私に興味なかったら聞かないでしょ」


今になって、あの時勢いで聞いてしまった質問が有り難く思えてきた。


「だからね、私仲良くなりたい。神田君と」


もう僕をおちょくっている様子はなく、本音のように聞こえた。


 今まで仲良くしている人がいないように見えたのは、ただ周りの人が彼女と話すのを臆しているだけで、彼女自体はただあれだけの会話でも、仲良くなれたと感じるほど、ガードは固くないのだ。


「綾野さんのことを聞いたのも、あなたを知りたいだけ。あと、神田君私に対してまだ敬語混じりよね。それも今度からやめてもらっていい?」


距離の詰め方が異常だなとは思ったが、こういうのは人それぞれだ、彼女がそう言うのであれば、僕はそれに従おう。


「えっと、、、それじゃぁこれからよろしく、舞香さん」


「舞香だけでいいわ」


「いやでもそこは、なんか言いにくいというか、、」


「そう、んーなら舞香たん?舞香ぽん?」


「いや、そうはならないでしょ。ていうかそういうの知ってるんだね。」


「えぇまぁ。あだ名には少し憧れがあったから。」


「ん〜〜、じゃぁ、、、舞さんとか?」


「私あまり自分の名前が削られるのは好きじゃないわ、だからやっぱりか『舞香さん』で、よろしくね」


「あ、あぁはいよろしく、、」


舞香さんは微笑んでいた。とても嬉しそうだった。


 そんなこんなで、ついつい浮かれて綾野の件を忘れていたが、昂る心を落ち着かせ、真剣に考えることにした。


 よく分からないが、僕と綾野に関して関係していることで『夢』がある。どちらも、普通じゃない夢(少なくとも僕はそう)を見ている。もし、綾野も僕と同じような夢を見ているのなら、、、、、


 夕日がまた少し落ちてきていた。朝ごろ降っていた雨は止み、綺麗な空が広がっている。

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