いろどりと、君 2
夏目漱石はある時、
「日本人は『I Love You』を伝える時、『我君を愛す』なんていう表現はしない。間接的に、『月が綺麗ですね』とでも言うのだ」
的なことを言ったそうだ。
僕からしたら、そんなの理解できない。
『月が綺麗ですね』、、、?
そんなので好意がわかるのなら、『愛してる』はいらない。
翻訳機に『I Love You』をかければ、『月(以下省略)が出てくるのか?いや、出てきやしない。
この世の真理が『感情』なら、『学問』とは一体なんだ?
得た知識だけでは表せないものがあるのか?
だが!今ならわかる、、気がする。
漱石が言っていたこと。違うならそれでいいし、僕が気にしてるのはそんなことじゃない。
今見ている光景、『柏原舞香』が写っているこの光景。
あぁ、感性だとも、きっとこれは感性だ。
言い表せない、言おうとと思っても、頭が働かない。
彼女がこちらに振り向いた。微かながらにも笑顔に見えた。
「我君を愛す」
咄嗟に口に出た言葉は、真昼の空を媒体に彼女まで届いた。
「ん?何?、、アイス?」
どうやら月は思っていたより冷たいようだ。
*******
「君この前の、シソダ君だよね?」
「カンダです・・・・」
突然話しかけられ驚いていたため、柏原さんは意外にもボケるんだな、とは後で思った。
「そういう、シ・ソ・ワバラさんは何をしているんですか?」
「私はカシワバラなんだけど、もしその『シソの葉』いじりが面白いと思っているのなら、やめたほうがいいと思うけど。面白くないから。」
普通に傷ついた。結構えぐられた。
気を取り直して、訂正して言ってみる。
「柏原さんは何をしてるんですか?」
柏原さんは、片手で髪を耳までたくしあげて言った。
「花壇を見てただけ。そういう君こそ、パン持って何してるの?」
語尾のイントネーションに少し可愛げがあり、ドキッとしてしまった。
ここでいつも昼食をしていると言うのはなんだか恥ずかしかったため、
「僕も花壇を見に。」
と、もっとマシな言い訳あったはずだろうが、なぜかそう言ってしまった。
「そう、」
彼女はそれだけ言い残して、体を180度方向転換した。帰ろうとした。
だけど、僕はその場の勢か何かしらで
「シソの葉、、美味しかったですか?」
と、心にも思っていないことを口にした。
「えぇ、少し苦かったわ」
彼女の答えはあっけなかった。
「それと、その『柏原さん』呼び、やめて」
突然のことに驚いた。
嫌われたか?
もっと他の言い方があったか?
嫌われてしまったか?
「もし今度話すことがあったら、下の名前で、、マイカで呼ぶようにしてくれる」
?、、!!
「それじゃぁ」
*******
彼女は去った。それと同時に、鐘がなった。
あっ、パン食べ切らなかったなぁ
でも、いっか、、、そんなこと、どうでも。
ただ下の名前で呼べる。それだけ、それだけで僕の鼓動は早くなり、目がくらむ、周りの音がよく聞こえる。
そうすると、たくさんの『実感』が溢れ出してきた。
あの柏原嶺と話した。それだけじゃなくて、それだけじゃなくて、、、、
その後のことはよく覚えていない。気づけば学校が終わって、家まで帰り着いていた。
変わらない日常に、初めて花束が添えられた日だった。