いろどりと、君 1
午後11:30ベットに入る。あの夢を見るために。
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火曜日、学校に着くとまた涼介が僕の席に座っていた。何やらニヤニヤしている。
「おい、、やっぱりかの晴れたな!」
「やっぱりって、、夢霧神社に行ったことか?」
「そうだよ、あのあと家帰ったらすぐ晴れたよな!」
昨日は僕にとって、晴れたことより、あの柏原さんに会えたことで頭がいっぱいだったためそんなこと気にもとめていなかった。
「でも、今日は相変わらずの雨じゃないか?
どうやら効果は一時的なんじゃないか?」
外は昨日と変わらず日の光一つ見えない曇天で、クラスの中も昨日と同じく湿っていた。
「達海、お前の『お願い』が足りなかったんじゃないか? お前が柏原舞香のことばかり考えているから」
涼介に生意気なことを言われ少しムカッっとしたため、昨日の出来事を言ってやろうかと思ったが、どうせまたしつこく聞き迫ってくるだろうと思ってやめた。
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今日は、売店でパンを二つ買って昼食を済ませることにした。教室で食べようかと迷ったが、結局やめた。
僕は教室に居場所がない。
約半年前、僕が所属していたサッカー部での出来事が、ことの発端だ。
中学の友達に誘われるがまま僕はサッカー部に入ったわけだが、僕自身サッカーに興味はなかった。うちの学校自体、強豪というわけではなかった。
ただ、一つ上の先輩にとてつもなく上手い奴がいた。僕らはその人のおかげで、良ければ3回戦ぐらい行けるようになっていた。
僕はというと、たいていベンチで、マネージャーの手伝いをしていた。
ある日、その一つ上の先輩が狙っている、サッカー部のマネージャーと僕が話していたことがあった。
別に何気ない会話だったが、先輩からしたら、どうやらとても親しく見えたらしい。
まぁ、察しのいい人ならこのあとは大体わかるよな。 案の定、僕は有りもしない噂を学校中に広められた。
最初知った時は、ものすごい怒りにかられたけど、なんだか、だんだん、歯向かうのがバカバカしくなって、言い訳するのをやめた。
きっとだだのあきらめだ。僕の昔からの悪い癖だ。
面倒くさくなると、なんでも投げやりにして、自分のことなのにほったらかしにして、自然消滅するのを待つだけ。
ダメなのは分かったいる。でも、なんだかこれ以上やってると、自分の理性的なものが崩壊していくような気がした。
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僕の昼食場所は、新棟裏の花壇の近く、排水溝に繋がるパイプの隣だ。
ここはとてもいい。1日を通してずっと日陰で、冷えたコンクリートが、座った時にひんやりと尻に冷たさを伝える。
誰もいない、耳障りな声も聞こえない。
いつしかここは、僕にとって何よりも変え難い、かけがえのない場所になっていた。
だが一つ、不満があるとすれば、
何もないことだ。
自分の存在を肯定する何か、こう、色鮮やかなもの。
いろどりがなければ、食べる飯もまずい。
まるで、電車の中で飯でも食っているような感覚だった。
雨は止んでいた。
今日もいつも通り、パンを食べていた。
いや、もうこの時すでにいつも通りではなかったのかもしれない。
何かが違った。いつもみたいに、些細な日常の繰り返しでは断じてなかった。
何かが変わる時。それは背景が変わる、映画のように、BGMが変わる。誰かが現れる。
僕が見たその光景はあまりにも美しかった。
僕がいつも座っているコンクリートから斜めに45度、5歩ほど進んだ花壇の近くに、その誰かがしゃがんでいた。
それは紛れもなく、、、柏原舞香
あぁ、そう昨日の彼女だった。