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雨上がり小道 2

そこにいたのは、紛れもなく柏原舞香だった。


*******



 柏原さんは傘をさしたまま、僕の家の前にしゃがんでいた。


えっ?あっ、えっ、

なんで、どうして?

俺に用!?いや、さすがにないよな、

じゃぁどうして??


焦りと不安が募る。


「あー、えっとどうしました?」


 そう言うと、柏原さんはもと向いていた方に顔を向けてしまった。


 無視された。また呆気に取られる。もうこれ以上話しかける勇気もなく、そっとしとこうかとも思ったが、一応自分家のまん前だ。置いておくわけにもいかず、しばらくそこで立っていた。


 綺麗な横顔だ。ずっと見ていられる。


そんなことを思った自分が少し変態に思えてきたその時、柏原さんは急に僕の方を向いてきた。

ずっと見つめてたことに気づいたのか、少し不機嫌そうな顔でこちらを見つめた。


「何?どうしたの?」


綺麗な声だ、、、、いやいや、今はそんな呑気なこと思ってる場合じゃない。


「あっ、えっとここー・・・」


と言いながら、父さんの工場の看板を指差す。


『神田金属加工』


「ん?、、、あぁ、あなたの家?もしかして」


「そうですけど、柏原さんは何をしているんですか?」

ずっと気になっていたことを聞く


「あー、このシソの葉」


彼女の前には、うちで育てているシソの葉があった。


「食べれるの?」


は?食べる?まぁ、シソの葉は食べれるけど、どうして?


「これ、君んちのだよね?食べれるの?」


「えぇ、食べれますけど。」

そんなに食べたいのか?


「一応食べるなら、洗ってからのほうが、」


警告したのにも関わらず、彼女はシソの葉一枚をちぎって食べた。


「雨水で濡れてるから大丈夫よ」


僕にとっては、これが彼女との最初の会話だった。



*******



 シソを食べた不思議な彼女は、これといった挨拶もせず、シソの葉をあと一枚ちぎって、咥えて帰っていった。


 その姿もまた、一枚の絵画のように綺麗だった。


 自分の部屋に入って、ベットに寝転ぶ。

昨日読み掛けた本が床に落ちている。本棚はわりかし綺麗だが、床は服、靴下、その他諸々でいっぱいだ。


でもそんなことどうでもいいほど、僕はさっきまでの光景が忘れられなかった。

今まで話したこともなかった女の子と話したのだから。しかも自分の家の前でだ。


 まるで、少女漫画、いや、よくもわからん月曜9時からやってるドラマであるようなシチュエーションに現実と虚構の区別ができないほど、頭の中は混乱、錯乱、大波乱。


 でも、なんだか、今まで触れることもできなかったものが、ほんの少し小指に触れたような、そんな感覚にさぞかし満足していた。


ベットの上で少しニヤつきながら僕は

「こんなことがあるんだなぁ」

と、独り言をこぼし、しばらくしてまた自分が少し変態に思えてきた。


雨はすっかり止み、雲まばらの晴れになっていた。

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