雨上がり小道 2
そこにいたのは、紛れもなく柏原舞香だった。
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柏原さんは傘をさしたまま、僕の家の前にしゃがんでいた。
えっ?あっ、えっ、
なんで、どうして?
俺に用!?いや、さすがにないよな、
じゃぁどうして??
焦りと不安が募る。
「あー、えっとどうしました?」
そう言うと、柏原さんはもと向いていた方に顔を向けてしまった。
無視された。また呆気に取られる。もうこれ以上話しかける勇気もなく、そっとしとこうかとも思ったが、一応自分家のまん前だ。置いておくわけにもいかず、しばらくそこで立っていた。
綺麗な横顔だ。ずっと見ていられる。
そんなことを思った自分が少し変態に思えてきたその時、柏原さんは急に僕の方を向いてきた。
ずっと見つめてたことに気づいたのか、少し不機嫌そうな顔でこちらを見つめた。
「何?どうしたの?」
綺麗な声だ、、、、いやいや、今はそんな呑気なこと思ってる場合じゃない。
「あっ、えっとここー・・・」
と言いながら、父さんの工場の看板を指差す。
『神田金属加工』
「ん?、、、あぁ、あなたの家?もしかして」
「そうですけど、柏原さんは何をしているんですか?」
ずっと気になっていたことを聞く
「あー、このシソの葉」
彼女の前には、うちで育てているシソの葉があった。
「食べれるの?」
は?食べる?まぁ、シソの葉は食べれるけど、どうして?
「これ、君んちのだよね?食べれるの?」
「えぇ、食べれますけど。」
そんなに食べたいのか?
「一応食べるなら、洗ってからのほうが、」
警告したのにも関わらず、彼女はシソの葉一枚をちぎって食べた。
「雨水で濡れてるから大丈夫よ」
僕にとっては、これが彼女との最初の会話だった。
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シソを食べた不思議な彼女は、これといった挨拶もせず、シソの葉をあと一枚ちぎって、咥えて帰っていった。
その姿もまた、一枚の絵画のように綺麗だった。
自分の部屋に入って、ベットに寝転ぶ。
昨日読み掛けた本が床に落ちている。本棚はわりかし綺麗だが、床は服、靴下、その他諸々でいっぱいだ。
でもそんなことどうでもいいほど、僕はさっきまでの光景が忘れられなかった。
今まで話したこともなかった女の子と話したのだから。しかも自分の家の前でだ。
まるで、少女漫画、いや、よくもわからん月曜9時からやってるドラマであるようなシチュエーションに現実と虚構の区別ができないほど、頭の中は混乱、錯乱、大波乱。
でも、なんだか、今まで触れることもできなかったものが、ほんの少し小指に触れたような、そんな感覚にさぞかし満足していた。
ベットの上で少しニヤつきながら僕は
「こんなことがあるんだなぁ」
と、独り言をこぼし、しばらくしてまた自分が少し変態に思えてきた。
雨はすっかり止み、雲まばらの晴れになっていた。