夢霧神社 2
明らかに拝殿の方から音がした。
ガチャッ、と音がした。
ドアが開く音だった。
「神田くん」
「あ、はい!」
「今日はどんな用できたの?いつもの男の子は居ないんだね」
「あぁ、涼介のことですか」
「そうそう、涼介君!いつもなら彼と二人で来るから、今日は可愛い子がいてびっくりしちゃった。神田君って、涼介君以外にお友達いたんだね」
翼さんはにっこりしながら僕にそう言った。
「・・・えっと、意外と辛辣ですね。一応僕も高校生なんで流石にあいつだけってことはないですよ」
「じゃぁその二人だけかしら?」
「いや!決してそんな・・こと・・・は・・」
「・・萎んでんじゃないわよ」
綾野が僕を憐れむように言った。
僕には実際、柏原舞香さんという友達がいる。
ただ、綾野にもこのことは言ったことがないため、後々めんどくさくなると思って言うのをやめた。
本当はまだいるのに!
「あら、ごめんなさい、気に触るようなことを言ってしまいましたね。許してくださいね」
「いえ、全然許します。翼さん美人なので!」
「あんた馬鹿正直すぎて、馬鹿に見えるわよ、馬鹿」
「綾野は馬鹿馬鹿うるさいな」
「あら、ありがとうございます。神田君はそんな正直なところがいいんですよ」
「ですよね!」
「調子に乗るんじゃないわよ馬鹿」
そうすると暫く沈黙が流れた。
綾野は翼さんの方を向いている。
僕は二人を行ったり来たり目で見ていた。
「・・・あの、」
「はい、なんでしょう」
「翼さんはここの管理者なんですよね・・・なら、ここのことに詳しいですよね・・・教えて欲しいことがあって、その、ここって、夢に関する願い事が叶うって聞いたんですけど・・・あってますか?」
綾野は歯切れが悪いように、何かに怯えるように翼さんに訊いた。それは、もし自分が求めていた答えと違ったら、つまり、綾野の夢の解決策がないのだとなったら、どうしていいかわからない。そんな恐怖から来る怯えなのだと僕には分かった。
「・・・・・・それをどこで?」
「あっ!えっと、ネットで見つけて、図書館に行って調べたんです。そしたら、古い文献みたいなのに書いてあって、それで知りました・・・」
お前図書館まで行ってたのか!すごいな!
いや、まぁ、それだけ必死だったのだろう。
だけどまぁ十中八九、今の翼さんの反応からして・・
「そうですよ、確かにあってます」
「ほ、本当ですか!じゃぁ、えっと、他に何かその、ここでの願い事の効果とかって分かったりします?」
「あっ、嘘つきました」
えっ?
「えっ?・・・どういう・・ことですか?」
「あっえっと、私ここの管理者ではあるんですけど、代々私の家系が受け継いできただけで、あまりそういうのは詳しくないんですよ。正しくは『もしかしたら、あってます』なんです。ですから、先程『確かに』と言ってしまったため、嘘をついたと言ったのです。ごめんなさい、少し紛らわしかったですね。でも、綾野さんが質問してきたようなことは私にはあまり分からないので、お答えできません」
「・・・あっ、なんだそういうことだったんですね、なんかすいません、色々一気に訊いてしまって」
「そうだぞ、それに、神社への願い事の効果とかって普通はないんだからな。ただ夢に『まつわる』ってだけで、必ずしも叶うってわけじゃないし」
翼さんは大学生ぐらいの女性で、前も僕に代々この神社の管理を任されている家系だということを教えてくれていた。翼さんにはご両親もまだいるみたいで、翼さん一人で管理しているわけではない。ただ、よく社務所にいるのは翼さんだけだ。
「私は言い伝えだけ知ってるんですけど、昔は確かにそのような慣習があったらしいのですが、今ではもう殆どなくて。神田君たちはそのことで今日は来たの?」
「あ、はい。綾野が言い始めたことで」
「その・・・あまり訳がわからないと思うんですけど、私嫌な夢をを見んですよ。私が嫌だなと思うような夢を」
綾野が語り出した
「ちょっと前から見るようになって、結構な頻度で見るんです。それで神田に相談したら、神田も変な夢を見るらしくて、それで神田も連れて今日は来ました」
まぁ他の人からしたらただの悪夢を見てる子供のようにしか見えないだろう。だが、綾野に関してそれは違う。僕が経験している夢と同じものを見ているのだとしたら、それは絶対にただの悪夢なんかじゃない。
「ほぅ・・・えっと、、あー、そうか・・・・うーん。まぁ、そうねー・・・」
ん?なんだ?翼さんが何かに悩んでいる。考えているのか?
何かあるのか?知っているのか?
「それはきっと『厄介夢』じゃないかしら」
・・・ほぅ、厄介夢かぁ・・・、なんだ、それ?
「厄介夢?・・・なんで、分かるんですか?」
「私もね、意外とちゃんと言い伝えなるものは真面目に聞いていたんですよ。だから言えることとして、その言い伝えでは、ここら辺の地域では不可思議な夢を見る人々が時々現れるみたいなんです。その夢を見る人たちはそれぞれ違う夢を見ていて、詳しい名前は忘れましたが、そのうちの一つに厄介夢というものが確かあったような気がするんですよ」
それぞれ違う夢を見る?・・じゃぁ僕と綾野が見ている夢は、仮にその話が本当だとしたら、違う種類の夢ってことか?
「本当にただの言い伝え程度でしかないんですけど、それでもお役に立てそうなら詳しく話しますよ」
「あっはい!是非聞かせてください」
綾野は興奮しているようだった。まぁ無理もなか。
というより『厄介夢』なんて聞いたことないぞ、正夢だとか逆夢だとかそういう類は知っているんだが、夢にも色々種類があるようだな。それとも、言い伝えの中の造語だったりするのだろうか?
「・・・えっとですね。厄介夢。それは簡単にいうと一般的に言われる悪夢とあなじようなものなのです。嫌な夢だったり、思わず飛び起きてしまうような夢なのですが、ここでそれとは違う点がいくつかあります。それは、まぁ端的にいうと夢の鮮明さですね」
「鮮明さ・・?」
「夢というものは寝ている際に見ることができますよね。その際見た夢は、起きたあと覚えていないことが多いといいます。まずはそこから違うのです。言い伝えでは、厄介夢など、ここら辺の地域で見られる不可思議な夢はどれも鮮明に覚えていることができるんですよ」
「確かに!私よく夢の内容とか、風景とかはっきりと覚えてます!」
それなら僕もそうだ。僕の見る夢は1日の流れが分かるほど鮮明だ。
・・・ということは、僕が見る夢も、言い伝えの中の夢の一つではないのだろうか?
「でも結局それって、普段より鮮明な悪い夢を見るってことなんですか?」
綾野が翼さんに問いかける
「えぇ、そうです。ですが、あと一つ普通の夢とは違う点があります。夢の中の記憶の維持、鮮明さ、それらが影響しているのかもしれませんが・・・」
翼さんは少し溜めてこう言った
「現実へ干渉できます」
現実への干渉!?・・・・
なんだそれ、
かっこいいじゃん