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初恋  作者: 秋月 周
前編
3/9

始まり

『14:56』

 品田は小学校の校門前に着いた。乱れる呼吸を整えつつ、三階建ての校舎を見上げる。田舎の学校には柵なんてものが設置されておらず、四十年前のゴールドラッシュを期にして建造されたコンクリートの外壁はボロボロだった。

品田は真っ先に生徒玄関へと向かい、スライドドアを開けようと取っ手に手をかける。長期休暇中の小学校の玄関。開いている訳がないが、ダメ元で力を込めて引いてみた。

───キッ、キィィ

「え」

ドアが動いた瞬間、品田は取っ手にかけた手をそのままに数秒停止してしまった。耳を痛める不快な音は校舎の奥まで響いて消えた。品田は訝しげにドアを見つめる。

......なんで開いてるんだろう。あ、燈夏が入ったからか。

品田はすぐにそう納得して校舎に侵入した。


 一応、下駄箱に外靴を入れておく。上履きは夏休み開始と同時に家に持ち帰ってないため、品田は靴下のまま廊下を歩き始めた。空調の効いていない建物内は酷く蒸されていて、同時に頭痛がするほど暑かった。

「あっつ......」

三橋を捜索する前に品田はトイレに寄った。水飲み場も併設されており、その恩恵を受けるためである。

───キュッ、キュッ、キュッ......ザーッ

口いっぱいに水を含んで、勢いよく喉に流し込む。品田の喉仏が一定のリズムで上下した。

それでもまだ暑さに耐えられない品田は、その場で着ていた服を脱ぎ、暗い青の短パンにグレイのタンクトップ、極めつけには裸足という格好になった。トイレの床ってなんかバッチィな、と思いながら目の前の鏡を見た。

「ん?」

鏡の端で何かが動いたような気がした。品田はその方向に振り返った。男子トイレの中だ。

「誰かいるの?」

僅かに恐怖を感じながら、品田は大きく声を張り上げた。しかしながら、誰もいないぞ、と主張でもするかのように言葉は一切の濁りなく反響した。

僅かな恐怖が小さな不気味さに変わり、品田はトイレを後にした。


 品田は職員室のドア前に立っていた。先生がいるかもしれないこと、そして唯一クーラーが躊躇なく冷やしていることが理由だった。

───コンコンコン

三回ノックする。いつもこうすれば、誰かしらは先生が出てくれるのだ。

だが品田に返ってきたのは無音だった。

暑さでどうにかなりそうな頭を冷やして考えてみると、そもそも夏休み中に先生が学校にいるハズがない。

......それに、先生がいなくても燈夏は探せるじゃないか。

というわけで、品田は職員室から立ち去った。

次に、品田は五年一組の教室を覗いていた。三橋も品田も同じく五年一組(というか各学年一組しか存在しない)で、忘れ物を取りに来るならここへ一番初めに来るはずだからだ。スライドドアの、正方形で形作られたなんの装飾もないガラスを見る。椅子と机が十八組置かれた教室には、人影が無かった。西日が強く差し込む狭い空間で、影を見つけられないことはあり得ない。ともなれば三橋は別の場所にいる、もしくは既に学校にいないのかもしれない。

品田はひとつ小さく息を吐いて、また歩みだした。

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